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2026/06/24 解決事例・コラム

相続放棄が無効になる?法定単純承認(民法921条3号)の落とし穴と注意点

遺産相続

相続放棄が無効になる?法定単純承認(民法921条3号)の落とし穴と注意点

公開日:2026年6月24日

相続放棄の手続きを済ませた後でも、財産を隠したり私的に消費したりすると、民法921条3号の「法定単純承認」とみなされ、放棄が無効になることがあります。借金を含む一切の財産を引き継ぐことになる深刻なリスクについて、どのような行為が該当するか、グレーゾーンの事例も含めて解説します。

1 相続放棄と法定単純承認の関係

相続放棄とは、家庭裁判所への申述により、最初から相続人でなかったものとみなされる制度です(民法938条・939条)。相続開始を知った日から原則3か月以内に手続きを行うことで、被相続人の借金などマイナスの財産を一切引き継がずに済みます。

しかし、申述が受理された後でも、一定の行為をしてしまうと、「法定単純承認法律に定められた事由があった場合に、相続を単純承認したとみなされる制度(民法921条3号)。本人の意思にかかわらず、プラス・マイナスすべての財産を引き継ぐことになります。」が成立し、相続放棄が無効となります。

法定単純承認が成立すると、民法919条1項の「相続の承認及び放棄は、撤回することができない」という規定により、原則として後から取り消すことはできません。「知らなかった」「故意ではなかった」という事情が考慮されることはほとんどなく、被相続人のすべての債務を引き受ける結果となります。

📖 解説
法定単純承認
一定の行為があった場合に、当然に単純承認したとみなされる制度(民法921条)
単純承認
プラス・マイナス含む一切の財産を無制限に相続するという旨の承認。
限定承認
相続財産の範囲内でのみ債務を引き受ける旨の承認。相続人全員で家庭裁判所に申述が必要
熟慮期間
相続開始を知った日から3か月間、承認・放棄を検討できる期間(民法915条)

2 単純承認とみなされる行為(民法921条3号)

民法921条3号は、熟慮期間中または相続放棄の申述後に、相続財産について以下の行為をした場合を単純承認とみなすと定めています。「放棄の申述を済ませたから安心」と思っていても、その後の行動次第では無効になる点に注意が必要です。

財産の隠匿
被相続人名義の預金口座・不動産・株式などの存在を、他の相続人や債権者に対して故意に秘匿する行為。「自分だけが知っている」状態を意図的に作り出すことが該当します。
財産の消費・処分
被相続人の預貯金を引き出して生活費や借金返済に充てたり、財産を売却・譲渡したりする行為。「形見分け」と称して高額な財産を持ち帰ることも含まれます。
財産目録への悪意の不記載
限定承認相続財産の範囲内でのみ債務を引き受ける承認方法。相続人全員で家庭裁判所に申述が必要です。の手続きで、財産の存在を知りながら故意に財産目録から除外した場合。単純な記載漏れとは異なり、故意(悪意)がある場合のみ該当します。
これらの行為があると、被相続人の借金を含むすべての財産を引き継ぐことになります

3 注意が必要なグレーゾーン

相続放棄後の行動には、「これは単純承認になるのか」と判断が難しいケースも少なくありません。代表的な4つのグレーゾーンを確認しておきましょう。

💰
葬儀費用の支払い
被相続人の預金口座から葬儀費用を支払った場合、「財産の消費」とみなされるリスクがあります。裁判例では保存行為として認められるケースもありますが、明確な法律上の免除規定はなく、可能な限り相続人個人の資金から支払う方が安全です。
🎁
形見分け
写真・日常使いの小物など社会通念上の形見分けは問題ないとされることが多いですが、宝飾品・骨董品・高額家電などを持ち帰ると「処分」とみなされるリスクがあります。何を持ち帰ってよいか迷う場合は、必ず事前に弁護士に確認してください。
📋
滞納税・公共料金の支払い
被相続人の固定資産税や公共料金などの滞納分を、被相続人の口座から支払うと財産の「消費」とみなされる可能性があります。支払いが必要な場合は、被相続人の口座を操作するのではなく、相続人個人の資金から立替え払いする方法を検討してください。
🏦
口座の引き出し行為
通帳の残高を確認するだけでは問題になりませんが、口座からの引き出し行為は「処分・消費」にあたる可能性があります。「葬儀代の予定だった」「生活費に困っていた」という事情があっても、原則として法定単純承認のリスクを回避できません。
グレーゾーンへの対処方法
1 遺産には一切手を付けないことが大原則。被相続人の口座操作・財産の持ち出しは相続放棄の前後を問わず慎重に行動する。
2 「これは大丈夫か?」と迷う行動がある場合は、実行する前に弁護士に確認する。相談のタイミングが早いほど取り得る手段が広がります。
3 万が一、すでに財産を処分・消費してしまった場合も、あきらめずに速やかに弁護士に相談する。状況によっては対処法を検討できる場合もあります。

4 よくある質問(FAQ)

葬儀費用を被相続人の預貯金から支払った場合、法定単純承認になりますか?
A ケースバイケースです。被相続人の口座を動かす前に弁護士に確認することを強くおすすめします。

葬儀費用の支払いは「相続財産の保存に必要な行為」として認められるケースもありますが、明確な法律上の免除規定はなく、争いとなることもあります。可能であれば相続人個人の資金で支払い、被相続人の口座には手をつけないことが最も安全な対応です。

形見分けをすると相続放棄が無効になりますか?
A 社会通念上の範囲内(小物・写真など)では問題になりにくいですが、高額品は要注意です。

写真や日常的な小物などの少額なものは、社会通念上の形見分けとして直ちに法定単純承認にはならないとされることが多いです。しかし、宝飾品・骨董品・高額家電などを持ち帰ると「処分」とみなされるリスクが上がります。迷う場合は、行動前に弁護士に確認することをおすすめします。

誤って財産を処分してしまった場合、相続放棄を撤回できますか?
A 原則として撤回できません。ただし、詐欺・強迫による場合は取消しができます。

民法919条1項により、いったん確定した相続の承認・放棄は撤回が認められていません。法定単純承認が成立した場合も同様です。ただし、詐欺や強迫によって行われた放棄は取り消せます。法定単純承認に該当するか不安な場合は、早急に弁護士にご相談ください。

相続放棄の申述前に被相続人の財産を調査しただけでも問題になりますか?
A 「調査・確認」だけでは問題になりません。問題となるのは、実際に隠匿・処分・消費した場合です。

財産の存在を確認したり、通帳の記録を確認したりするだけでは法定単純承認にはなりません。相続放棄を適切に判断するための財産調査は、放棄のために必要な行為として認められています。問題となるのは、財産を「隠匿」「処分」「消費」する実際の行為があった場合です。

まとめ

この記事のポイント
1 相続放棄が受理された後でも、財産の隠匿・消費・財産目録への悪意の不記載があると、民法921条3号の「法定単純承認」が成立し、放棄は無効となる。
2 法定単純承認が成立すると、民法919条1項により原則撤回できない。被相続人の借金等すべてのマイナス財産を引き継ぐことになる。
3 葬儀費用の支払い・形見分け・滞納料金の支払いなどグレーゾーンの行為も多い。迷ったら「行動する前に弁護士に確認する」ことが最大の防止策となる。
📚 参考資料
e-Gov法令検索
民法 第921条(法定単純承認)
https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
裁判所
相続の放棄の申述(家事手続案内)
https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/kazi_06_13/index.html

相続放棄後の行動に不安があるときは

「あの行動は問題なかったか」と不安に感じているなら、一人で判断せず弁護士にご相談ください。法定単純承認に該当するかどうかの判断は、行為の内容・時期・金額・意図など複数の要素が絡む複雑な問題です。早めにご相談いただくほど、取り得る対応の幅が広がります。

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監修
弁護士 板橋晃平
弁護士法人市ヶ谷板橋法律事務所 代表弁護士。東京弁護士会所属。遺産相続・遺産分割・相続放棄など相続問題全般のほか、企業法務・不動産取引を中心に取り扱う。依頼者の状況を丁寧に聞き取り、現実的・実践的な解決策を提示することを心がけている。
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