2026/05/08 その他一般民事
公正証書がデジタル化|ウェブ会議での作成・電子署名・手数料改訂を解説
公正証書がデジタル化|ウェブ会議での作成・電子署名・手数料改訂を解説
令和7年10月1日、改正公証人法が施行されました。これにより公正証書の原本は原則として電磁的記録(PDF)で作成されるようになり、さらに一定の要件のもとでウェブ会議(リモート方式)による作成も可能になっています。押印が電子サインに変わり、手数料体系も大きく見直されました。弁護士が実務上のポイントをわかりやすく解説します。
第1 公正証書のデジタル化
令和5年制定の「民事関係手続等における情報通信技術の活用等の推進を図るための関係法律の整備に関する法律」(令和5年法律第53号)に基づき、公証人法が改正されました。施行日の令和7年10月1日以降、段階的に全国の公証人が指定を受け、同年12月15日に全員がデジタル公正証書を作成できるようになっています。
▶︎ e-Gov法令検索:公証人法
デジタル公正証書の原則と例外
改正後は、公正証書原本は原則として電磁的記録(PDF形式)で作成・保管されます(新法36条)。ただし、次の場合には従来どおり書面での作成が認められています。
変わった点① 署名押印 → 電子サイン
紙の公正証書では列席者が署名押印していましたが、電子公正証書では電子サインに変わりました。公証人のパソコン画面またはペンタブレットにタッチペンで氏名を書くと、その筆跡が画像としてPDFに記録されます。公証人自身は、電子サインに加えて、日本政府認証局官職サブ認証局発行の官職証明書による電子署名を付します(新法40条4項1号)。
(嘱託人・証人・通訳人など)
変わった点② 電子正本・電子謄本の発行
公正証書の内容を証明する書類(正本・謄本)について、書面のほか、電磁的記録(電子正本・電子謄本)でも発行が可能になりました。電子正本・電子謄本はAdobe Acrobat Readerで開くと、電子署名の有効性と改ざんの有無が自動表示されます。
(執行力あり)
(証明・送達用)
対面方式での公正証書作成の流れ
公証役場での対面作成は、基本的な流れは改正前と変わりません。
事前準備
嘱託人が公証人に申込み。電子メールのやりとりで証書案を確定し、日時を決定。
本人確認
公証役場等で対面し、運転免許証・マイナンバーカード等を提示。改正後は署名用電子証明書の提供も方法として追加(新法28条)。
陳述聴取・証書案の確認
公証人が証書案をWordで画面表示し、読み聞かせ・閲覧で内容を確認。意思能力・真意も確認する。
列席者の電子サイン
証書案をPDF保存後、各列席者がタッチペンで電子サイン。押印は原本作成には不要(付随書類は要確認)。
公証人の電子サイン・電子署名・原本保存
公証人が電子サインと官職証明書による電子署名を付して完成。電子公正証書システムに保存。
正本・謄本の交付
嘱託人の請求に従い、紙正本・紙謄本または電子正本・電子謄本を交付。
第2 ウェブ会議(リモート方式)による作成
ウェブ会議方式では、公証人と嘱託人等が遠隔地にいながら公正証書を作成できます。公正証書原本が電磁的記録(PDF)で作成されることで、インターネット経由でクラウド上のPDFへの電子サインが可能になったことが技術的な背景です。使用するウェブ会議ツールはMicrosoft Teamsです。
▶︎ 日本公証人連合会 公式サイト
ウェブ会議方式の3つの要件(新法37条2項)
相当性の判断基準:必要性と許容性
嘱託人から申出がある時点で一応の必要性は認められます。さらに次のような事情があると高度の必要性が認められます。
本人確認・真意確認・判断能力確認をウェブ会議で適切に行えるかが検討されます。
ビジネス目的で代理人による嘱託が可能な公正証書
遺言・任意後見など嘱託人の真意確認が特に重要なもの
必要な機材(ウェブ参加者側)
ウェブ会議当日の手続の流れ
嘱託書の送付(事前)
書式(日公連HP掲載「様式1」)を用いて、署名用電子証明書(マイナンバーカード)で電子署名するか、実印押印+印鑑登録証明書を付して公証人に送付。マイナンバーカード等のデータも事前送付する。
Teams招待メールの受信・参加
公証人がTeamsでウェブ会議を設定し、招待メールを送付。当日に参加。
本人確認
公証人がウェブ参加者にマイナンバーカード等の提示を求め、事前提出データと照合・画像キャプチャ。室内の状況確認を求める場合もある。
証書案の画面共有・読み聞かせ
公証人がWordの証書案を画面共有し、読み上げ。ウェブ参加者は画面で内容を確認・承認する。
電子サイン・電子署名・完成
証書案をPDF化後、電子サイン依頼メールを送付。ウェブ参加者が画面共有でサインする様子を確認。公証人が電子署名を付して完成・クラウド保存。
書類の郵送等
紙正本・紙謄本は手続終了後に郵送等で交付。電子正本・電子謄本については日公連ウェブサイト参照。
第3 公証人手数料の改訂
令和7年政令第263号により、公証人手数料令(平成5年政令第224号)が改正され、令和7年10月1日に施行されました。デジタル化に伴うシステム構築費用の増加・物価上昇への対応を図りつつ、一方でひとり親家庭や高齢者の利用促進のため一部手数料が引き下げられました。
▶︎ e-Gov法令検索:公証人手数料令
法律行為の目的価額に応じた手数料(改正後)
| 目的の価額 | 手数料 | 改正の方向 |
|---|---|---|
| 50万円以下 | 3,000円 | 新設・引下げ |
| 50万円を超え100万円以下 | 5,000円 | 据置き |
| 100万円を超え200万円以下 | 7,000円 | 据置き |
| 200万円を超え500万円以下 | 13,000円 | 引上げ |
| 500万円を超え1,000万円以下 | 20,000円 | 引上げ |
| 1,000万円を超え3,000万円以下 | 26,000円 | 引上げ |
| 3,000万円を超え5,000万円以下 | 33,000円 | 引上げ |
| 5,000万円を超え1億円以下 | 49,000円 | 引上げ |
| 1億円を超え3億円以下 | 4万9,000円+超過額5,000万円ごとに1万5,000円加算 | 引上げ |
| 3億円を超え10億円以下 | 10万9,000円+超過額5,000万円ごとに1万3,000円加算 | 引上げ |
| 10億円を超える場合 | 29万1,000円+超過額5,000万円ごとに9,000円加算 | 引上げ |
類型別の手数料変更ポイント
改正内容:法律行為の価額算定上限が「10年間の給付総額」から「5年間の給付総額」に引き下げられ、手数料が実質的に低減されました。
改正内容:手数料令9条の原則額の半額(10分の5)に引き下げられました。
改正内容:遺言の公正証書と同様に、手数料令9条の原則額に1万3,000円を加算。ただし遺言による信託の場合は遺言加算のみ適用。
・公正証書:1件 2,500円
・それ以外:1件 2,000円
その他の手数料変更
よくあるご質問
公正証書はすべてデジタル化されましたか?
原則として電磁的記録(PDF)で作成されますが、保証意思宣明公正証書や成年被後見人の遺言公正証書など、法律上デジタルで作成できないものは引き続き書面で作成されます。また、データ容量が10MBを超えてシステム上の電子署名が付せない場合も例外的に書面で作成されます。
ウェブ会議方式で公正証書を作成するには何が必要ですか?
ウェブカメラ・マイク・スピーカー付きのパソコン、タッチ入力可能なディスプレイまたはペンタブレット、受信可能なメールアドレスが必要です。また、嘱託書にマイナンバーカードの署名用電子証明書による電子署名を付けるか、実印と印鑑登録証明書を添付して事前送付する必要があります。
遺言はウェブ会議方式で作成できますか?
一般の遺言公正証書は技術的にはウェブ会議方式での作成が可能です。ただし、嘱託人の真意確認が特に重要なため、公証人が許容性を慎重に判断します。嘱託人の年齢・心身状況・内容等を総合的に勘案して、対面方式を求められる場合もあります。
養育費の公正証書の手数料は下がりましたか?
はい。改正により養育費の法律行為の価額算定上限が「10年分」から「5年分」に引き下げられ、実質的に手数料が低減されました。ひとり親家庭の負担軽減を図る趣旨です。
電子公正証書で強制執行はできますか?
令和9年までは裁判所の執行システムとの連動が未了のため、電子正本では強制執行ができません。この間は紙正本による対応となります。令和9年以降に電子正本での執行が可能になる予定です。
まとめ
令和7年10月施行の改正公証人法により、公正証書は原則として電磁的記録(PDF)で作成されるようになりました。署名押印は電子サインに変わり、電子正本・電子謄本の発行も可能になっています。また、一定の要件のもとでウェブ会議による作成も認められ、地方在住の方やDV事案など、公証役場への出頭が困難なケースでの活用が期待されます。手数料面では、養育費・死後事務委任の手数料引下げがある一方、高額案件・信託・各種加算は引き上げられています。具体的な手続や費用については、担当公証役場にご確認ください。
公正証書の作成・デジタル化について弁護士に相談する
公正証書の作成方法の選択、ウェブ会議方式の可否判断、内容の法的チェックなど、お気軽にご相談ください。
無料相談のご予約はこちら

