2026/09/17 お知らせ
借地上の建物、共有持分だけでは買取請求できない?最高裁判決を弁護士が解説
1 事案の概要
被上告人(地主)は、平成2年7月、Aとの間で、自己が所有する土地の一部について、建物所有を目的として期間30年(平成元年10月から)の賃貸借契約を締結しました。Aはこの土地上に区分所有建物を建築し、その専有部分の所有権を有していました。
平成30年8月、Aが死亡しました。Aの4名の子らは、相続によって、この専有部分の持分を各4分の1ずつ取得し、以後4名の共有状態となりました。その後、賃貸借契約は期間30年(令和元年10月から)で更新されています。
上告人(不動産業者)は、令和3年2月、4名の子のうち3名から、それぞれの持分(合計4分の3。以下「本件持分」)を買い受けました。同年11月、上告人は被上告人に対し、この買受けに伴って土地の借地借家法14条建物買取請求権を定める規定。借地権の目的である土地の上の建物等の譲受人は、賃借権の譲渡または転貸について地主が承諾しないために対抗できないときは、地主に対し、時価での建物等の買取りを請求できる。の賃借権の持分も譲渡されたことになるとして、その承諾を求めましたが、被上告人はこれを承諾しませんでした。そこで上告人は、賃借権の譲渡を対抗できないことを理由に、本件持分について建物買取請求権を行使する旨の意思表示をしました。
上告人は、建物買取請求権の中心的な趣旨が投下資本の回収の要請にあることを踏まえれば、建物の持分が譲渡された場合であっても、その持分について買取請求権が成立すると解すべきであると主張しました。しかし、原審はこの主張を退け、本件持分について買取請求権は成立しないと判断しました。上告人はこの原審の判断を不服として、法令解釈の誤りがあるとして上告しました。
2 建物買取請求権とは
賃借権の目的である土地の上にある建物その他借地権者が権原によって土地に附属させた物(以下「建物等」)の譲受人は、その賃借権の譲渡について地主の承諾、または承諾に代わる裁判所の許可を得られない場合、当該譲渡を地主に対抗することができません。この場合、譲受人は地主から建物等の収去および土地の明渡しを請求されるおそれがあります。
借地借家法14条は、このような場面において建物等の譲受人に建物買取請求権を認めることで、建物等についての投下資本の回収を図るとともに、社会経済的な効用を有する建物等を存続させることを目的とした制度です。
買取請求権が行使されると、地主は建物等の時価相当額を支払うことによってその所有権を取得することになります。これにより地主が一方的に不利益を負うようにも見えますが、地主は所有権を取得した後、その建物等を第三者に譲渡して新たに借地権を設定することもできますし、建物等を取り壊して土地を別の用途に供することも可能になります。つまり、この制度は地主にとって一定の負担を伴いつつも、その後の土地・建物の活用に選択の幅を残す仕組みになっているといえます。
3 最高裁の判断:建物の持分については買取請求権は成立しない
最高裁は、建物の持分についての建物買取請求権は成立しないと判断し、上告を棄却しました。この判断の理由として、次の2点が示されています。
持分について買取請求権を認めると、地主は自らの意思によらず、当該建物の共有関係に巻き込まれることになります。地主は持分の時価相当額の負担を余儀なくされながら、建物の処分行為を自由に行うことはできず、他の共有者との調整を図りつつこれを使用・収益する立場にとどまることになります。このため、建物所有権の全部について買取請求権が行使された場合に比べて、地主が重大な不利益を被るおそれがあるとされました。
建物の持分に関する投下資本の回収は、共有物分割請求という別の手段によって図ることができます。この点から、建物所有権全部の譲渡の場合と比較して、持分についてまで買取請求権を認める必要性は乏しいとされました。
最高裁は、この結論は譲渡の対象が区分所有建物の専有部分の持分であっても異なるものではないとし、本件持分について建物買取請求権は成立しないと結論づけました。上告人が主張した「投下資本の回収の要請」という趣旨自体は否定されていませんが、持分の場合にはその回収を図る別の手段(共有物分割請求)が存在することが、買取請求権を認めない決め手になっています。
4 補足意見が示す視点
本判決には、尾島明裁判官による補足意見が付されています。実務上、この補足意見が示す視点も参考になります。
上告人側の主張には、建物が地主とそれ以外の者との共有になっている場合を念頭に、その者が第三者に持分を譲渡し買取請求権が行使されれば、地主は結果的に建物全部の所有権を取得することになるため、地主が共有関係に巻き込まれる不利益は生じないのではないか、という趣旨の指摘が含まれていました。この指摘は、法廷意見の理由づけ①(共有関係への巻き込みという不利益)が当てはまらない場面もあるのではないか、という問題提起といえます。
これに対し補足意見は、共有関係に巻き込まれる不利益がないという事情は、持分について買取請求権を認める根拠にはならないと述べています。その理由として、地主が建物全部の所有権を取得することになる場合、その負担(特に自らの意思によらない売買代金の負担)は地主の側のみに生じる一方で、買取請求権の成立を認めない場合であっても、地主・第三者の双方には、全面的価格賠償を含む共有物分割による柔軟な調整手段が存在することが挙げられています。これに対し、第三者が建物全部の所有権を取得した場合には、このような調整手段自体が存在しません。
補足意見は、こうした関係者間の利害バランスを踏まえ、建物の持分については、地主が共有関係に巻き込まれる不利益の有無にかかわらず、一般的に買取請求権は成立しないと解すべきであるとしています。つまり、法廷意見が示した理由づけは限定的な場面設定を前提にしたものではなく、持分についての買取請求権を広く否定する趣旨であることが、この補足意見によって明確化されているといえます。
5 実務上の注意点
本判決が否定したのは、あくまで建物の「持分」についての買取請求権です。この点は判例の射程を考えるうえで重要です。
第三者が共有持分ではなく、専有部分の所有権全部を取得していた場合には、本判決が示した理由(地主が望まない共有関係に巻き込まれるという不利益)はそもそも当てはまりません。このため、建物所有権全部の譲渡であれば、借地借家法14条の他の要件(賃借権の譲渡についての承諾不承諾など)を満たす限り、買取請求権が成立する可能性は残されています。本判決はこの場合の結論まで直接示したものではないため、個別の事案ごとに検討が必要です。
このことは、不動産取引の実務においていくつかの示唆を与えます。借地上の建物について共有持分の一部を取得しようとする場面では、地主の承諾が得られない場合に建物買取請求権に頼ることができないことを前提に、取引を検討する必要があります。具体的には、残りの持分も併せて取得し所有権全部を確保することを目指すか、あるいは共有物分割請求など他の手段による資金回収の見通しをあらかじめ検討しておくことが重要になります。特に、複数の共有者から段階的に持分を買い進める取引形態を予定している場合には、全部の取得が完了するまでの間、賃借権の対抗力や買取請求権の有無について不安定な状態が生じ得ることを踏まえた契約設計が求められます。
6 よくある質問(FAQ)
本判決が買取請求権を否定した理由は、地主が望まない共有関係に巻き込まれる不利益等にあります。建物全部の所有権を取得している場合はこの不利益が生じないため、借地借家法14条の他の要件を満たせば買取請求権が成立する可能性があります。ただし本判決はこの場合の結論まで直接示したものではないため、個別に検討が必要です。
本判決は、持分に関する投下資本の回収は共有物分割請求によって図ることができるとしています。他の共有者との共有関係の解消や、全面的価格賠償による調整を含め、具体的な対応は個別の事情によって異なりますので、専門家への相談をおすすめします。
地主が賃借権の譲渡を承諾しないために譲受人が借地権を対抗できず、建物を無価値のまま失うおそれがある場面で、投下資本の回収と建物の存続を図る趣旨から借地借家法14条に設けられています。
複数人で共有している物について、共有者の一人が他の共有者に対して分割を求める手続きです。現物を分けるほか、共有者の一人が他の共有者の持分を取得して代わりに価格を支払う方法(全面的価格賠償)など、柔軟な解決方法が認められています。
専門家に相談したい方へ
借地上の建物の共有持分の取得や、建物買取請求権をめぐるご相談は、弁護士法人市ヶ谷板橋法律事務所までお気軽にお問い合わせください。

