解決事例・コラム

2026/08/28 解決事例・コラム

所有者不明土地の放置リスクと管理命令の活用法

公開日:2026年8月24日
隣地が長年放置され、草木が生い茂ったり、不法投棄物が積み重なったり、建物が倒壊のおそれがあるまま放置されたりして、周囲に被害が及びかねない――こうした所有者不明土地所有者を知ることができない、または所有者の所在を知ることができない土地のことをいいますを巡る事案は全国的に増えています。所有者と連絡が取れないまま危険な状態が続き、役所に相談しても「私有地には介入できない」と言われてしまうケースも少なくありません。本稿では、所有者不明土地・建物に対応するための管理命令制度について解説したうえで、実際のご相談事例をもとに、どのような対応が考えられるかをご紹介します。

1 放置された隣地が引き起こすリスク

隣接する土地・建物の所有者が不明であったり、所有者が長年放置していたりする場合、さまざまな形で周囲に被害が及ぶ可能性があります。土地であれば、草木が繁茂して隣地に越境したり、大きく成長した樹木が倒木・落枝を起こして隣地の建物や人に被害を及ぼしたりするおそれがあります。また、放置された土地にごみや廃材等の不法投棄物が積み重なり、悪臭や害虫の発生、景観の悪化といった問題を引き起こすこともあります。建物であれば、老朽化が進んでいるにもかかわらず修繕がなされないまま放置され、倒壊のおそれが生じている場合もあります。

こうしたリスクは、直接的な倒木・倒壊という被害に至らない場合でも、長年にわたる草木の繁茂や不法投棄物の堆積、建物の老朽化によって、隣接する土地・建物の資産価値や生活環境が徐々に損なわれていく可能性もあります。所有者が明確であれば話し合いや是正の申入れによって軽減できる場合がありますが、所有者が不明であったり連絡が取れなかったりする場合には、対応の糸口をつかむこと自体が難しくなります。

このセクションのポイント
1 所有者不明・管理不全の土地・建物は、草木の繁茂・不法投棄物・倒壊のおそれのある建物など、さまざまな形で周囲に被害を及ぼす可能性があります
2 直接の被害がなくても、周囲の資産価値や生活環境が徐々に損なわれていく可能性があります
3 所有者と連絡が取れない場合、対応の糸口をつかむこと自体が難しくなります
📖 解説
所有者不明土地
所有者を知ることができない、または所有者の所在を知ることができない土地のことをいいます
管理不全
土地・建物の手入れがなされず、危険な状態や周囲への悪影響が放置されていることをいいます

2 「私有地には介入できない」と言われてしまう理由

土地の所有権は所有者本人に帰属するものであり、その管理方法は原則として所有者の自由に委ねられています。そのため、行政機関であっても、他人の土地に無断で立ち入って樹木を伐採したり、所有者に対して強制的に対応を求めたりすることは、原則としてできません。市区町村の窓口で「私有地には介入できない、手紙を送ることはできる」といった案内にとどまるのは、こうした所有権の原則があるためと考えられます。

もっとも、これは「行政が何もできない」という意味ではなく、あくまで強制的な介入の手段が限られているという意味です。所有者への連絡の仲介や、一定の要件のもとでの行政代執行など、行政が対応できる範囲は事案によって異なります。ただし、いずれの対応も所有者の協力や一定の法的手続を前提とするため、所有者と連絡が取れない状態が続く限り、実効性のある対応にはつながりにくいのが実情です。

行政ができること(例)

登記情報等を手掛かりにした所有者への連絡の仲介、一定の要件を満たす場合の行政代執行の検討

行政が単独では難しいこと

所有者の意思に反した強制的な伐採、私有地への無断立ち入り、所有者への損害賠償請求の代行

3 所有者不明土地・建物管理命令制度とは

こうした所有者不明の土地・建物に対応するための制度として、民法264条の2裁判所は、所有者を知ることができず、又はその所在を知ることができない土地(土地が数人の共有に属する場合にあっては、共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができない土地の共有持分)について、必要があると認めるときは、利害関係人の請求により、その請求に係る土地又は共有持分を対象として、所有者不明土地管理人(第四項に規定する所有者不明土地管理人をいう。以下同じ。)による管理を命ずる処分(以下「所有者不明土地管理命令」という。)をすることができる。 2 所有者不明土地管理命令の効力は、当該所有者不明土地管理命令の対象とされた土地(共有持分を対象として所有者不明土地管理命令が発せられた場合にあっては、共有物である土地)にある動産(当該所有者不明土地管理命令の対象とされた土地の所有者又は共有持分を有する者が所有するものに限る。)に及ぶ。 3 所有者不明土地管理命令は、所有者不明土地管理命令が発せられた後に当該所有者不明土地管理命令が取り消された場合において、当該所有者不明土地管理命令の対象とされた土地又は共有持分及び当該所有者不明土地管理命令の効力が及ぶ動産の管理、処分その他の事由により所有者不明土地管理人が得た財産について、必要があると認めるときも、することができる。 4 裁判所は、所有者不明土地管理命令をする場合には、当該所有者不明土地管理命令において、所有者不明土地管理人を選任しなければならない。以下に、所有者不明土地・建物管理命令の制度が設けられています。これは、不動産の所有者を知ることができない場合や、所有者の所在を知ることができない場合に、利害関係人からの申立てにより、地方裁判所が管理人を選任し、管理人にその不動産の管理を委ねる手続です。

管理人による管理の内容としては、草木の剪定や不法投棄物の処分、倒壊のおそれがある建物の解体など、対象不動産の効率的かつ適切な管理、円滑・適正な利用を図るための対応が想定されています。今回のように、隣地に生えた樹木が危険な状態にあるものの、所有者と連絡が取れず対応してもらえないという場合には、この制度の活用が選択肢の一つになり得ます。

📖 解説
所有者不明土地・建物管理命令
所有者が不明な土地・建物について、地方裁判所が管理人を選任し、管理を委ねる制度です
管理人
裁判所により選任され、対象となる土地・建物の管理を行う者をいいます

4 申立てができるのはどのような人か(利害関係人)

所有者不明土地・建物管理命令の申立てをすることができるのは、対象となる不動産の管理に関して利害関係を有する人です。具体的にどのような人が該当するかは個別の事案に応じて裁判所が判断しますが、例えば、所有者不明の土地・建物が適切に管理されないことで不利益を被るおそれのある隣接地の所有者や、購入計画が具体化している民間の購入希望者などが利害関係人に当たり得ると考えられます。

このセクションのポイント
1 申立てができるのは、対象不動産の管理について利害関係を有する人に限られます
2 隣接地の所有者など、不利益を被るおそれのある人は利害関係人に当たり得ると考えられます

5 申立ての要件(3つの要件)

所有者不明土地・建物管理命令の申立てが認められるためには、大きく分けて次の3つの要件を満たす必要があると考えられています。

利害関係人であること

対象不動産の管理に関して利害関係を有する人であることが必要です。

所有者不明・所在不明

必要な調査を尽くしてもなお、所有者が特定できない、または所在が判明しない場合を指します。

管理命令の必要性

対象不動産の管理状況等から見て、管理人による管理が必要かつ相当であることが求められます。

要件②について、具体的には、不動産登記記録上の住所を手掛かりに、住民票や戸籍・除籍・改製原戸籍等の調査を行ったうえで、判明している住所について郵便による調査や現地での聞き取り調査などを行うことが一般的に求められます。

6 手続きの流れ

1
申立書・資料の準備
申立人、不明所有者、対象不動産等を記載した申立書に加え、所有者の所在等について調査を尽くした経過をまとめた報告書や、その調査の過程で収集した資料を準備します。
2
地方裁判所への申立て
対象となる土地・建物の所在地を管轄する地方裁判所に申立てを行います。土地とその土地上の建物の双方について管理命令を求める場合は、それぞれについて申立てをする必要があります。
3
予納金の納付
裁判所における審理を経て、官報公告費用や管理に必要な費用、管理人の報酬等に充てるための予納金の金額が決定され、申立人がこれを納付します。
4
官報公告・異議届出期間
裁判所が管理命令の申立てがあったことなどを官報に公告し、対象となる土地・建物について権利を有する人が異議を届け出るための期間(1か月以上)が設けられます。
5
管理命令の発令・管理人の選任
異議の届出がないことなど、必要な要件が満たされていると裁判所が判断した場合、管理命令が発令され、管理人が選任されます。

7 費用はどのくらいかかるか

所有者不明土地・建物管理命令の申立てには、主に次のような費用が必要になる可能性があります。

1,000 申立手数料の目安(対象不動産1個につき) 共有持分の場合も同様
6,150 郵便切手代の目安 手続の途中で追加納付が必要な場合あり
1000分の4 登録免許税率(対象不動産の価格に対する割合) 管理命令発令時の登記嘱託に必要

これらに加え、官報公告費用、樹木の剪定等の管理のための費用、管理人の報酬などに充てられる予納金が必要です。予納金の具体的な金額は、事案の内容や管理業務の期間等により裁判所が判断するため、あらかじめ確定的な金額を示すことは難しい性質のものです。

このセクションのポイント
1 申立手数料・郵便切手代はあらかじめ定額の目安がありますが、予納金は事案により大きく変動する可能性があります
2 費用対効果を検討するうえでは、予納金の見込み額について事前に裁判所へ確認することが有用と考えられます
3 なお、本稿で紹介した費用の内訳は大阪地方裁判所第10民事部が公表する資料に基づくものであり、申立て先の裁判所によって運用上の取扱いが異なる場合があるため、実際の申立てにあたっては管轄裁判所への確認が必要です

8 管理命令だけでは解決しない問題――既発生の損害への対応

所有者不明土地・建物管理命令は、あくまで対象となる土地・建物について、今後の適切な管理を実現するための制度です。そのため、この制度の申立てが認められたとしても、既に発生してしまった伐採費用や修繕費用等の損害について、当然に賠償を受けられるわけではありません。

こうした既発生の損害については、所有者に対する不法行為に基づく損害賠償請求や、緊急性を要してやむを得ず対応した場合の事務管理に基づく費用償還請求など、別途の法的構成を検討する必要がある場合があります。なお、不法行為に基づく損害賠償請求権には消滅時効があり、損害及び加害者を知った時から一定期間が経過すると時効により請求が困難になる可能性があるため、早めに検討を進めることが望ましいと考えられます。

このセクションのポイント
1 管理命令はあくまで将来に向けた管理のための制度であり、既発生の損害の賠償を直接目的とするものではありません
2 既発生の損害については、不法行為に基づく損害賠償請求や事務管理に基づく費用償還請求などを別途検討する必要がある場合があります
3 損害賠償請求権には消滅時効があるため、早めの対応が望ましいと考えられます

9 ご相談事例に見る対応の流れ

ここで、当事務所にお寄せいただいたご相談を、個人が特定されないよう一般化したうえでご紹介します。

あるご家庭では、病気療養中で実家に一人でお住まいのご家族がいらっしゃいましたが、実家の裏手にある所有者不明の山林から樹木が倒れ、屋根に倒れかかりそうになるという事案が発生しました。幸い直撃は免れたものの、放置すればいつ人的被害につながってもおかしくない状況であったため、やむを得ず業者を手配して伐採を行いました。実は、同じ土地の樹木が過去にも倒れて実家の建物に被害を与えたことがあり、その際にご家族が登記情報をもとに所有者の住所を訪ねたものの、既にそこには居住しておらず、対応の糸口をつかめないままとなっていました。

今回の件を受けて役所に相談したところ、「私有地には介入できない、手紙を送ることはできる」との回答にとどまり、実効性のある対応にはつながりませんでした。

このようなケースでは、次のような対応を組み合わせて検討することが考えられます。

1
所有者の所在調査を徹底すること
住民票や戸籍の附票の調査等を通じて、登記上の住所以外の手掛かりがないかを確認します。
2
所有者不明土地・建物管理命令の申立てを検討すること
所在調査を尽くしてもなお所有者と連絡が取れない場合、管理命令の申立てにより、管理人を通じた樹木の伐採等の対応を求めることが考えられます。
3
既発生の損害について別途の請求を検討すること
過去の被害や今回の伐採費用等については、時効の点も考慮しながら、損害賠償請求や費用償還請求の可能性を検討します。

10 まとめ

所有者不明土地からの倒木等のリスクに直面した場合、役所への相談だけでは解決に至らないことが少なくありません。所有者の所在調査を尽くしたうえで、所有者不明土地・建物管理命令の申立てを検討し、あわせて既発生の損害については損害賠償請求等の別途の対応を組み合わせて検討することが重要になると考えられます。

よくある質問(FAQ)

所有者は判明しているものの、連絡が取れない場合も対象になりますか
A 対象となり得ますが、所在調査を尽くしていることが前提です

所有者の氏名は判明していても、その所在を知ることができない場合には、所有者不明土地・建物管理命令の対象となり得ると考えられます。もっとも、住民票や戸籍の附票の調査等、所在を確認するための必要な調査を尽くしていることが前提となります。

管理命令の申立てをすれば、必ず伐採してもらえますか
A 申立てをすれば当然に伐採されるとは限りません

管理命令が発令され管理人が選任された場合でも、樹木の伐採等の具体的な対応は、管理人が対象不動産の状況等を踏まえて必要性・相当性を判断したうえで実施されるものであり、申立てをすれば当然に伐採が行われるとは限りません。

弁護士に依頼すると、どのような対応をしてもらえますか
A 所在調査から損害賠償の検討まで総合的に対応します

所有者の所在調査の方針の検討、申立書・資料の準備、裁判所とのやり取りへの対応のほか、既発生の損害についての損害賠償請求の検討など、事案に応じた総合的な対応が可能です。まずは個別のご事情をお伺いしたうえで、取り得る手段とその費用対効果について丁寧にご説明いたします。

大阪地方裁判所第10民事部「所有者不明土地・建物管理命令申立てについてのQ&A」(▶︎ 裁判所ウェブサイトを見る

所有者不明の土地・建物にお悩みの方へ

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監修
弁護士 板橋晃平
弁護士法人市ヶ谷板橋法律事務所の代表弁護士。不動産・相続・企業法務など幅広い分野を取り扱い、市ヶ谷エリアを中心に相談者一人ひとりに寄り添った対応を心がけている。
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