2026/04/13 企業法務
起業前に知っておきたい 創業者が陥りやすいトラブルと対策
起業前に知っておきたい8つの法的ポイント
起業前に知っておきたい法的ポイントを押さえておかないと、事業が軌道に乗り始めた頃に深刻なトラブルに見舞われることがあります。株式割合の設定ミスによる仲間割れ、知らないうちの許認可違反、商標侵害など、創業者が陥りやすい8つのリスクとその対策を解説します。
1 はじめに――法律の備えが事業を守る
新しい事業を始めるとき、商品やサービスの開発、資金調達、販路開拓といったことに意識が向きがちです。しかし、起業時から法律を意識した備えをしておかないと、事業が軌道に乗り始めた頃に深刻なトラブルに見舞われることがあります。事業の停止、損害賠償、社会的信用の失墜――いずれも、せっかく積み上げてきた努力を台無しにしかねません。
本コラムでは、創業者が起業時に押さえておくべき8つの法的ポイントを解説します。「自分のビジネスには関係ない」と思わず、ぜひ一度、専門家に相談することをお勧めします。
3 知らないうちに法律違反?――業法・許認可の確認
海外の成功事例を参考にビジネスモデルを考えることはよくありますが、国が違えば法律も違います。日本では事業の種類ごとに「業法」と呼ばれる規制が存在し、必要な許認可を取得せずに事業を行うと、行政指導にとどまらず刑事罰の対象となることもあります。
事業が軌道に乗った後に「実は違法だった」と指摘されても、その時点での軌道修正は非常に難しくなります。代表的な業種と必要な許認可を確認しておきましょう。
| 業種 | 関係する主な法律 | 必要な許認可 |
|---|---|---|
| 宿泊事業 | 旅館業法・住宅宿泊事業法など | 旅館業営業許可または住宅宿泊事業の届出 |
| 人材派遣業 | 労働者派遣法など | 一般労働者派遣事業許可など |
| 中古品販売 | 古物営業法など | 古物商許可 |
| 食品提供事業 | 食品衛生法など | 飲食店営業許可など |
| 貸金業 | 貸金業法・出資法など | 貸金業登録 |
| 化粧品(自社ブランド・輸入品の市場出荷) | 薬機法 | 化粧品製造販売業許可など |
なお、化粧品については、すでに市場流通している製品を仕入れてそのまま販売するだけであれば、一般に薬機法上の「製造販売業許可」は不要です。ただし、自社ブランドとして市場に出す(ラベル上の「製造販売元」になる)場合や、海外から輸入して市場出荷する場合などは、許可が必要になります。
弁護士には守秘義務があるため、アイデアが外部に漏れる心配なく相談できる点も大きなメリットです。起業前の早い段階での相談をお勧めします。
「このビジネス、どの法律に気を付ける?」を起業前に必ず弁護士に確認しましょう。
4 商標は早めに登録を――ネーミングとロゴのリスク管理
「この商品名、ほかに同じものはないから大丈夫」と思っていても、類似した商標がすでに登録されていれば、販売差止や損害賠償請求を受けるリスクがあります。商標とは、会社名・商品名・ロゴ・キャッチフレーズなど、自分の商品を識別するための標章(マーク)のことです。
商標権者には、登録した商標と同一のものだけでなく「類似」する商標の使用も禁止する権利があります。ただし、商標権の効力は登録時に指定した「商品・役務(サービス)」の範囲およびその類似範囲に及ぶものであるため、業種・商品カテゴリが大きく異なる場合は直ちに侵害とならないこともあります。いずれにせよ、事前の商標調査は欠かせません。
また、商標登録されていない名称であっても、広く知られた(周知の)商品名と混同を生じさせるような名称を使用した場合は、不正競争防止法に基づく差止・損害賠償請求の対象となることがあります(不正競争防止法2条1項1号等)。
逆に、自社の商品名と類似するものが未登録であれば、できるだけ早く商標登録を行うべきです。商標出願の手続きは弁理士が担当しますが、侵害トラブルの交渉や訴訟対応は弁護士の領域です。双方を適切に活用することが知的財産権を守る鍵です。
商品名・ロゴは類似商標を調査したうえで、できるだけ早く商標登録しましょう。
5 契約書は必ず作る――取引リスクを減らす備え
「口頭で確認したから大丈夫」「受発注書だけで済ませてきた」という経験がある方は多いと思います。しかし、一部の例外を除いて契約書がなくても契約は成立するため、トラブルが起きたときに何も手を打てなくなるリスクがあります。なお、保証契約については、書面(または電磁的記録)によることが法律上の成立要件とされているため注意が必要です(民法446条2項)。
契約書には、契約の種類・目的・対価の金額や算定方法・納品や支払の時期と方法・品質保証の有無・契約解除事由・違約時のペナルティ・守秘義務・知的財産権の帰属などを盛り込むことが基本です。民法や商法のデフォルトのルールは、必ずしも自社に有利な内容とは限りません。
また、契約書が印紙税法上の課税文書に該当する場合は収入印紙の貼付が必要です。ただし、電子契約(電磁的記録)は「文書」には含まれないため、印紙税は課税されないとされています(国税庁見解)。紙の契約書では印紙の貼付を忘れずに行いましょう。
口約束は禁物。取引のたびに契約書を整備し、トラブルに備えましょう。
6 何を作るか明確に――請負契約・製作物供給契約の注意点
ホームページやソフトウェアの制作、出版物の製作など「物を作る」ことを依頼・受注する場合、請負契約または製作物供給契約という形をとることが一般的です。
請負契約の注意点
請負契約では、何をもって仕事の「完成」とするか、成果品がどのような品質・水準を備えていればよいかを契約書に明記することが重要です(民法632条以下)。この点が曖昧だと、完成させたつもりでも報酬を受け取れなかったり、やり直しを求められたりといったトラブルに発展します。特に有体物でないホームページやソフトウェアは仕様を詳細に定めておくことが肝要です。
製作物供給契約の注意点
製作物供給契約(オーダーメイド品の製造販売など)は、請負契約と売買契約の両方の性質を兼ねているため、どちらの法規定を適用するか曖昧になりがちです。そのため、請負契約以上に契約書の重要性が高く、少なくとも請負契約と同等の事項を確実に明記しておく必要があります。
取適法(改正下請法)への対応
下請業者に仕事を手伝ってもらう場合の法規制については、2026年1月施行の法改正により、従来の「下請代金支払遅延等防止法(下請法)」が「取引の適正化等に関する法律(取適法)」へと改題・拡充されています。適用基準の見直しや禁止行為の追加が行われているため、現時点での詳細は公正取引委員会の公式情報を確認することをお勧めします。
「何を作るか」を契約書に明記しないと、トラブルにつながります。
7 店舗経営に必要な3つの契約――賃貸借・請負・フランチャイズ
実店舗を構えて事業を行う場合、複数の契約を同時に締結することになります。それぞれの注意点を押さえておきましょう。
賃貸借契約(賃借人側)
退去時の原状回復義務の範囲を契約書に明記しておくことが重要です。店舗用の賃貸借契約では、住居用に比べて賃借人の負担範囲を広くする特約が有効とされる可能性が高いため、敷金・保証金の返還条件や修繕義務の分担についても事前に確認・明記しておきましょう。
請負契約(内装工事・注文者側)
仕様書や設計図書を契約書に添付して求める内容を明確に規定することが基本です。工事完成後の引渡し前に不可抗力で成果物が滅失した場合の処理や費用負担、検収方法なども契約書で定めておくとトラブル時の対応がスムーズになります。契約後に工事内容を追加・変更する場合も、口頭ではなく発注書・受注書等の書面を必ず交わしましょう。
フランチャイズ契約
使用できる商標・商号、本部から受ける経営指導の内容と方法、ロイヤルティの金額と算定方法を契約書に具体的かつ明確に記載することが不可欠です。本部(フランチャイザー)に対して十分な説明を求め、納得した上で署名することが重要です。なお、フランチャイズ取引は独占禁止法上の規制とも関係するため、不明点があれば弁護士への相談をお勧めします。
賃貸借・内装工事・フランチャイズ、いずれも「契約書に書いていないこと」が後のトラブルになります。
8 ウェブ販売の法律――特定商取引法・個人情報保護法・利用規約
インターネット上で商品やサービスを販売する場合、「通信販売」として特定商取引法の規制を受けます。広告を掲載する際には、販売価格・送料・支払時期と方法・引渡時期・返品に関する事項・事業者の氏名(名称)・住所・電話番号などを表示することが義務付けられています。
通信販売には訪問販売のようなクーリング・オフの制度はありません。ただし、広告において返品特約を適切に表示していない場合などは、特定商取引法15条の3により消費者が商品受取後8日以内に申込みの撤回・契約の解除を行える場合があります。返品ポリシーの明示は、トラブル防止の観点から非常に重要です。
また、購入者の個人情報を取得する以上、個人情報保護法のルールに従う必要があります。利用目的を具体的に特定し、プライバシーポリシーをウェブサイト上で公表することが一般的です。2017年5月30日以降はすべての事業者が個人情報保護法の対象となっており、中小企業・個人事業主も例外ではありません。
さらに、利用規約を整備して利用者の同意を得ておくことで、サービス内容の変更やクレームへの対応が格段にスムーズになります。ただし、消費者向け(BtoC)サービスの場合、広範な免責条項や一方的に消費者に不利な条項は、消費者契約法8条〜10条により無効となる可能性があります。テンプレートをそのまま流用せず、弁護士にレビューを依頼することをお勧めします。広告表現については景品表示法にも注意が必要で、根拠のない効果・性能の表示や過大な景品提供は違反となります。
ネットショップは特商法・個人情報保護法・景表法が一度に適用されます。開設前に全て確認しましょう。
9 採用・派遣・業務委託の違い――雇用形態の選択と注意点
起業後、他者の力を借りる方法には、従業員の採用(雇用契約)、派遣社員の受入、請負・業務委託契約の締結という選択肢があります。それぞれ法律上の取り扱いが異なるため、自社のニーズに合った形態を選ぶことが重要です。
雇用契約(労働基準法・労働契約法)
従業員を採用する場合、就業規則がない段階でも、就業場所・業務内容・賃金・就業時間などの労働条件を書面で明示する義務があります(労働基準法15条)。2024年4月の法改正により、全労働者に対して「就業場所・業務の変更の範囲」等の追加明示も義務化されています。最新の明示事項については厚生労働省の公式資料を参照してください。試用期間中も雇用契約が成立しているため、客観的に合理的な理由なく解雇することはできません。また、パートタイム勤務者が他社でも働いている場合、法定労働時間(1日8時間・週40時間)は他社での就労と通算されるため、想定外の割増賃金支払義務が生じるリスクがあります。
派遣(労働者派遣法)
派遣社員はあくまで派遣元事業者の従業員であるため、事前面接や履歴書の提出を求めることは避けるべきとされています(紹介予定派遣は例外)。また、同一の派遣社員を受け入れられる期間は原則3年という制限があります。
請負・業務委託(取適法・フリーランス法)
2026年1月施行の「取適法(改正下請法)」の適用対象になり得るほか、個人(フリーランス)に業務委託する場合は2024年11月施行の「フリーランス法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)」の対象にもなり得ます。フリーランス法では、取引条件の書面明示・報酬の支払期日(納品後60日以内)・ハラスメント対策義務などが発注側に課されています。
「雇用」「派遣」「業務委託」は似て非なるもの。形態を間違えると法違反になります。
10 まとめ――早めの弁護士相談が事業を守る
起業時には処理すべき課題が山積みになり、法律対策は後回しになりがちです。しかし、トラブルが大きくなってから弁護士に相談するよりも、事前に相談して軌道修正する方が、時間・費用・精神的負担のいずれの面でも圧倒的にコストが低く済みます。本コラムで取り上げた8つのポイントを改めて整理します。
POINT 1
株式割合
リーダーは最低51%、できれば67%以上を確保する
POINT 2
業法・許認可
事業開始前に法規制の有無を必ず確認する
POINT 3
商標
類似商標を調査し、早期に登録する
POINT 4
契約書
取引ごとに整備し、印紙税にも注意する
POINT 5
請負・製作物
完成基準・仕様を明確にし、取適法に注意する
POINT 6
店舗契約
賃貸借・請負・フランチャイズの各契約を精査する
POINT 7
ウェブ販売
特商法・個人情報保護法・利用規約・景表法を遵守する
POINT 8
雇用・委託
雇用形態ごとの法規制と最新の改正に対応する
起業の法的リスクについてお気軽にご相談ください
「自分のビジネスに当てはまるか分からない」「契約書のチェックをしてほしい」など、起業に関する法律のご相談は当事務所にお任せください。
無料相談のご予約はこちら11 よくある質問(FAQ)
仲間と50%ずつ株式を持って起業するとどんなリスクがありますか?
意見が対立した場合、株主総会で過半数を取れず何も決議できなくなるリスクがあります。また、相手が過半数を確保してしまうと、あなたの意見が通らなくなるだけでなく、最悪の場合会社から追い出されることもあります。リーダーであれば最低51%、できれば67%以上の株式を保有することが推奨されます。
海外で合法なビジネスを日本で始める場合、何か確認が必要ですか?
はい、必ず確認が必要です。日本には事業の種類ごとに「業法」と呼ばれる規制があり、国ごとに異なります。必要な許認可を取得せずに事業を行うと、行政指導だけでなく刑事罰の対象になることもあります。起業前に弁護士に相談して、自社のビジネスモデルに法規制が及ぶかどうかを確認することが重要です。
商標登録されていない名称でも、使用すると問題になることがありますか?
あります。商標登録されていない名称でも、広く知られた(周知の)商品名と混同を生じさせる名称を使用した場合は、不正競争防止法に基づく差止・損害賠償請求の対象となることがあります。商標調査の際は、登録商標の確認だけでなく、周知されている未登録商品名との類似性も確認することが重要です。
通信販売にクーリング・オフはありますか?
通信販売には、訪問販売のようなクーリング・オフの制度はありません。ただし、広告において返品特約を適切に表示していない場合などは、特定商取引法15条の3により、消費者が商品受取後8日以内に申込みの撤回・契約の解除を行える場合があります。返品ポリシーの明示は非常に重要です。
フリーランスに業務を委託する場合、どんな法律に注意が必要ですか?
2024年11月施行の「フリーランス法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)」が適用される場合があります。この法律では、発注側に取引条件の書面明示・報酬の支払期日(納品後60日以内)・ハラスメント対策義務などが課されています。また、2026年1月施行の「取適法(改正下請法)」の対象になる場合もあります。

