解決事例・コラム

2026/10/07 解決事例・コラム

遺留分侵害額請求とは?計算方法・時効・請求の流れを弁護士が解説

公開日:2026年10月1日

「長男にすべての財産を相続させる」という遺言が残されていた場合でも、他の相続人が何も受け取れないわけではありません。配偶者や子など一定の相続人には、遺言によっても奪うことのできない最低限の取り分である遺留分が法律上保障されており、これが侵害されたときは、侵害している相手に対して金銭の支払いを求めることができます。これを遺留分侵害額請求といいます。本記事では、請求できる人の範囲、遺留分の割合や侵害額の計算方法、時効・除斥期間、実際の請求の流れまでを解説します。

遺留分侵害額請求とは

1 遺留分侵害額請求とは

遺留分とは、被相続人の兄弟姉妹を除く相続人、すなわち配偶者・子(およびその代襲相続人)・直系尊属に対して、法律上最低限保障されている遺産の取得割合です。遺言や生前贈与によってこの遺留分が侵害されても、その遺言や贈与そのものが無効になるわけではありません。侵害された相続人は、遺贈や贈与を受けた側に対して、侵害された額に相当する金銭の支払いを求めることができます。これが遺留分侵害額請求です。

この制度は令和元年7月1日に施行された改正民法によって内容が変わっています。改正前は「遺留分減殺請求」と呼ばれ、不動産などの現物そのものを取り戻すことが原則でしたが、改正後は金銭の支払いを求める権利、すなわち金銭債権として整理されており、請求を受けた側が現物の返還を選ぶことはできません(民法1046条1項)。

もっとも、遺留分が認められるのは相続人の全員ではありません。兄弟姉妹には遺留分がなく、また相続放棄をした人や、相続欠格・相続廃除によって相続権を失った人も、遺留分を請求することはできません。

遺留分が認められる人
配偶者
子(代襲相続人を含む)
直系尊属(父母・祖父母など)
遺留分が認められない人
兄弟姉妹
相続放棄をした人
相続欠格・廃除により相続権を失った人

相続欠格・廃除の場合は代襲相続人が、相続放棄の場合は次順位の相続人が遺留分を取得することがあります。

📖 解説
遺留分
兄弟姉妹を除く相続人に対して法律上最低限保障されている遺産の取得割合のこと。
受遺者
遺言によって遺産を受け取る人のこと。
受贈者
生前贈与によって財産を受け取った人のこと。
このセクションのポイント
1 遺留分は配偶者・子・直系尊属に保障された最低限の取り分であること
2 遺言や贈与自体は無効にならず、金銭で取り戻す制度であること(現物返還は選べない)
3 兄弟姉妹には遺留分が認められていないこと

2 遺留分の割合はどのように決まるか

遺留分の割合は、誰が相続人になるかによって変わります。相続人が直系尊属のみである場合は相続財産の3分の1、それ以外の場合は2分の1と定められています(民法1042条1項)。この割合を相続人全体で分け合う際は、法定相続分に応じてさらに個々の相続人の取り分(個別的遺留分)が決まります。

たとえば相続人が配偶者と子であれば、全体の遺留分は2分の1となり、そこに配偶者・子それぞれの法定相続分を乗じることで、個々の遺留分の割合が算出されます。

直系尊属のみが相続人の場合
3分の1相続財産の3分の1
それ以外の場合
2分の1相続財産の2分の1
このセクションのポイント
1 遺留分の割合は「相続人が誰か」によって3分の1か2分の1かが決まること
2 個別的遺留分は、全体の遺留分に各自の法定相続分を乗じて算出すること

3 遺留分侵害額はどのように計算するか

実際に請求できる金額(遺留分侵害額)は、遺留分の額からそのまま導かれるわけではありません。民法1046条2項では、遺留分の額から、請求する相続人がすでに受けた遺贈や特別受益相続人が被相続人から生前に受けた贈与のうち、遺産の前渡しとみなされるもの。の価額、および相続によって取得すべき遺産の価額を差し引き、そこに承継する相続債務の額を加算して算定すると定められています。

つまり、遺留分侵害額は「本来もらえるはずだった金額」と「実際に受け取った金額(プラスの財産から負担する債務を差し引いたもの)」との差額として計算される仕組みです。

【計算式】遺留分侵害額 = 遺留分の額 −(遺贈・特別受益の価額)−(相続で取得すべき遺産の価額)+(承継する相続債務の額)
📖 解説
特別受益
相続人が被相続人から生前に受けた贈与のうち、遺産の前渡しとみなされるもの。
このセクションのポイント
1 侵害額は、遺留分の額から既取得分を差し引き、負担する債務を加算して算出すること
2 計算がずれると請求額を誤るため、財産・債務の正確な把握が前提になること

4 生前贈与はどこまで対象になるか

遺留分の算定にあたっては、被相続人が生前に行った贈与も一定の範囲で財産に含めて計算します。相続人以外への贈与は、原則として相続開始前1年以内にされたものに限られます。一方、相続人に対する婚姻・養子縁組のため、または生計の資本としての贈与(特別受益)は、原則として相続開始前10年以内にされたものが対象です。

1年相続人以外への贈与(原則)相続開始前1年以内が対象
10年相続人への特別受益(原則)婚姻・養子縁組・生計の資本としての贈与が対象

なお、贈与をした側とされた側の双方が、その贈与によって遺留分権利者に損害を与えることを認識していた場合には、この期間を超えた古い贈与であっても算定の対象に含まれます(民法1044条)。

このセクションのポイント
1 相続人以外への贈与は原則1年以内、相続人への特別受益は原則10年以内が対象になること
2 加害の認識が双方にあれば、10年より前の贈与も対象になり得ること

5 誰に、どのような順序で請求するか

遺留分侵害額請求の相手方が複数いる場合、負担の順序と割合は民法1047条1項によって定められています。まず、遺言によって財産を受けた受遺者遺言によって遺産を受け取る人のこと。と、生前贈与を受けた受贈者生前贈与によって財産を受け取った人のこと。がいる場合は、受遺者が先に負担します。受遺者が複数いるとき、または受贈者への贈与が同時にされたものであるときは、それぞれが受けた財産の価額の割合に応じて負担します(遺言に別段の定めがあればそれに従います)。受贈者が複数いて贈与の時期が異なる場合は、後に贈与を受けた人から順に負担することになります。

①
受遺者が先に負担する
②
受遺者が複数、または受贈者への贈与が同時であれば価額の割合に応じて負担する(遺言に別段の定めがあれば従う)
③
受贈者が複数で贈与の時期が異なる場合は、後の贈与を受けた人から順に負担する
このセクションのポイント
1 遺贈を受けた人(受遺者)が生前贈与を受けた人(受贈者)より先に負担すること
2 複数の受贈者がいる場合、負担順は原則「後の贈与から」であること

6 請求の流れ

遺留分侵害額請求は、必ずしも裁判を起こさなければできないものではありません。まず相手方に対して、遺留分侵害額を請求する意思表示を行います。この意思表示は口頭でも法律上は有効ですが、後に時効の起算点を証明できるよう、内容証明郵便で行うのが一般的です。その後、当事者間の話し合いで解決できればそれに越したことはありませんが、合意に至らない場合は家庭裁判所の調停を利用し、それでもまとまらない場合は訴訟に進むことになります。

1
内容証明郵便による意思表示
時効の起算点を証拠として残すため、内容証明郵便(配達証明付き)で請求の意思を通知します
2
話し合い(協議)
当事者間で金額や支払方法について交渉します
3
調停
話し合いがまとまらない場合、家庭裁判所の調停手続きを利用します
4
訴訟
調停でも解決しない場合、訴訟で決着を図ります
このセクションのポイント
1 請求の意思表示自体は口頭でも有効だが、内容証明郵便での通知が実務上の基本であること
2 協議がまとまらなければ調停、それでも解決しなければ訴訟に進むこと

7 時効・除斥期間に注意

遺留分侵害額請求権には、2種類の期間制限があります。ひとつは、相続の開始と、遺留分を侵害する贈与または遺贈があったことの両方を知った時から1年で消滅する時効です。もうひとつは、知っていたかどうかに関係なく、相続開始の時から10年が経過すると請求権そのものが消滅する除斥期間です(民法1048条)。この10年の除斥期間には時効のような中断がなく、期間が過ぎれば請求は認められなくなります。

1年の時効は、遺言の存在を後から知った場合など、知った時点によって起算点が変わるため注意が必要です。一方で10年の除斥期間は、知る・知らないに関わらず相続開始時から一律に進行します。

相続開始
1年(消滅時効)
10年(除斥期間)
上段の「1年」は、相続開始及び侵害する贈与・遺贈を知った時から進行する消滅時効です。起点は「知った時」であるため、相続開始と同時とは限りません。下段の「10年」は、相続開始時から進行する除斥期間で、1年の消滅時効の期間を包含する形で進行します。
このセクションのポイント
1 1年の消滅時効は「相続開始」と「侵害する贈与・遺贈」の両方を知った時から進行すること
2 10年の除斥期間は知・不知を問わず相続開始時から進行し、中断がないこと

8 支払方法と期限の許与

遺留分侵害額請求権は金銭債権であるため、原則として一括で支払う必要があります。もっとも、請求を受けた側が不動産や自社株式などの形で財産を受け継いでおり、すぐに現金を用意できない場合もあります。このような場合、請求を受けた受遺者または受贈者は、裁判所に対して支払いについて相当の期限を許してもらうよう求めることができます(民法1047条5項)。この制度により、換価に必要な期間を考慮した分割払いなどが認められる余地があります。

このセクションのポイント
1 遺留分侵害額請求権は金銭債権であり、一括払いが原則であること
2 資金調達が難しい場合は、裁判所に支払いの期限の許与を求められること

9 まとめ

遺留分侵害額請求は、遺言や生前贈与によって最低限の取り分を侵害された相続人を守るための制度です。請求できる人の範囲、割合、計算方法に加えて、1年の消滅時効と10年の除斥期間という2つの期間制限があることを理解しておく必要があります。特に時効は起算点の判断が難しく、対応が遅れると権利そのものを失いかねません。遺留分をめぐる紛争は財産評価や特別受益の有無など専門的な判断を要する場面が多いため、早い段階で弁護士に相談することをおすすめします。

10 よくある質問(FAQ)

兄弟姉妹でも遺留分侵害額請求はできますか。
Aできません。

できません。遺留分が認められるのは配偶者・子(代襲相続人を含む)・直系尊属のみで、被相続人の兄弟姉妹には遺留分そのものが認められていません。

生前贈与から10年以上経っていれば、遺留分侵害額請求の対象外になりますか。
A原則としては対象外ですが例外があります。

原則としては対象外ですが例外があります。相続人への特別受益にあたる贈与は原則10年以内が対象ですが、贈与をした側とされた側の双方が遺留分権利者に損害を与えることを認識していた場合は、10年より前の贈与も算定の対象に含まれます。

遺留分侵害額請求をされたら、必ずお金を払わなければなりませんか。
A時効・除斥期間内の有効な請求であれば、原則として支払う必要があります。

時効・除斥期間内の有効な請求であれば、原則として支払う必要があります。ただし、資金調達に時間を要する場合は、裁判所に支払いの期限を猶予してもらうよう求める手続きがあります。

遺留分侵害額請求の時効は、いつから数えますか。
A相続の開始と、遺留分を侵害する贈与または遺贈があったことの両方を知った時から1年です。

相続の開始と、遺留分を侵害する贈与または遺贈があったことの両方を知った時から1年です。相続開始時からではなく「知った時」が起算点になる点に注意が必要です。

遺留分についてお悩みの方は、当事務所にご相談ください

遺留分侵害額請求は、時効・除斥期間があるため早めの対応が重要です。財産や特別受益の調査、相手方との交渉、調停・訴訟対応まで、弁護士法人市ヶ谷板橋法律事務所がサポートいたします。

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監修
弁護士 板橋晃平
弁護士法人市ヶ谷板橋法律事務所代表。企業法務・相続・不動産・労働問題・離婚など幅広い分野に対応し、遺産分割や遺留分をめぐるトラブルの解決に注力している。
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