2026/03/20 解決事例・コラム
弁護士によるEAPとは? 『会社法務A2Z』特別寄稿によせて
弁護士によるEAPとは? 『会社法務A2Z』特別寄稿によせて
弁護士によるEAPは、従業員が抱える私生活上の法的問題に弁護士が関与し、仕事に集中しやすい環境づくりにつなげる支援の仕組みです。近年は、従来の企業法務を少し広げた新しい支援のあり方として注目が集まっています。
1 『会社法務A2Z』特別寄稿と弁護士EAP協会の取組み
弊所所属の板橋晃平弁護士が理事を務める、一般社団法人弁護士EAP協会の代表理事である牛見和博弁護士が、『会社法務A2Z』2025年12月号において特別寄稿を行い、弁護士によるEAPの意義と可能性を対外的に発信いたしました。
弁護士によるEAPという分野は、まだ一般には広く知られているとはいえません。しかし、企業法務の実務に関わる立場から見ると、従業員の私生活上の問題が会社に及ぼす影響は決して小さくありません。
こうした動きは、弁護士によるEAPが単なる新しいサービスにとどまらず、企業法務の重要な新分野として注目され始めていることを示すものといえるでしょう。
2 EAPとは何か
EAPとは、Employee Assistance Program の略で、日本語では一般に「従業員支援プログラム」と訳されます。従業員が抱える問題を早い段階で把握し、必要に応じて専門家につなぐことで、就労継続や職場の安定を支える仕組みです。
対象となる問題は、メンタルヘルスに限られません。家族関係、金銭問題、健康上の不安、生活上のトラブルなど、仕事のパフォーマンスに影響し得る幅広い問題が含まれます。
つまり、EAPは単なる福利厚生の一種ではなく、従業員が安心して働ける環境を整え、生産性を向上させるための実務的な支援制度となりえます。
ポイント
- EAPは、従業員の就労に影響し得る問題を早期に把握し、支援につなぐ仕組みです。
- 対象はメンタルヘルスに限られず、家族、金銭、生活、法律の問題まで広がります。
- 従業員本人の支援と、職場全体の安定の双方に意味があります。
3 弁護士によるEAPとは何か
弁護士によるEAPとは、従業員が抱える問題のうち、特に法律問題が関わるものについて、弁護士が相談対応を行う仕組みです。対象となるのは、離婚、相続、借金、交通事故、不動産トラブル、家族間紛争など、私生活上の法的問題全般です。
これらは一見すると会社とは無関係に見えるかもしれません。しかし、従業員が深刻な法的トラブルを抱えていると、精神的な負担から集中力が下がったり、欠勤や遅刻が増えたり、業務上の判断に支障が出たりすることがあります。
会社が従業員の私生活に過度に介入することは適切ではありませんが、相談先のルートを整えることには意味があります。弁護士によるEAPは、会社が問題の内容に立ち入りすぎることなく、必要な専門支援につなぐ仕組みとして機能します。
ポイント
- 弁護士によるEAPは、従業員の私生活上の法的問題に弁護士が対応する仕組みです。
- 離婚、相続、借金、交通事故、不動産トラブルなどが典型例です。
- 従業員個人の問題であっても、就労状況を通じて会社に影響することがあります。
4 顧問弁護士や他の相談窓口との違い
弁護士によるEAPは、既存の相談窓口と競合するものではなく、それぞれの役割を補い合うものとして考えるのが自然です。
たとえば、産業医やカウンセラーは健康面や心理面の支援を担い、ハラスメント相談窓口や内部通報窓口は職場内部の問題への対応を担います。これに対し、弁護士によるEAPは、従業員の私生活上の法的問題を扱う点に特徴があります。
また、顧問弁護士は通常、会社自身の相談に対応する立場にあります。そのため、従業員個人が、自分の離婚や相続、借金などの問題を会社の顧問弁護士にそのまま相談することには、心理的な抵抗がある場合もあります。そこで、従業員向けの法的支援窓口として、別建てで弁護士によるEAPを設けることに意味があります。
ポイント
- 弁護士によるEAPは、カウンセリング窓口や産業医の役割を代替するものではありません。
- 顧問弁護士は会社の相談に対応し、弁護士によるEAPは従業員個人の法的問題の相談ルートになります。
- 会社法務と従業員支援を切り分けながら両立させられる点に特徴があります。
5 企業にとってのメリット
弁護士によるEAPのメリットは、従業員本人の安心にとどまりません。企業にとっても、いくつかの実務的な利点があります。
第一に、従業員が仕事に集中しやすくなることです。法的トラブルの見通しが立たない状態は、大きな心理的負担になりますが、相談先があり、対応の方向性が見えるだけでも負担が軽減されることがあります。
第二に、福利厚生の充実につながることです。法的トラブルは誰にでも起こり得る一方で、弁護士へ相談できる環境が職場に用意されている例はまだ多くありません。そのため、採用や定着の面でも差別化要素になり得ます。
第三に、人的資本経営やウェルビーイングの観点とも親和性が高いことです。従業員が安心して働ける環境づくりを重視する企業にとって、弁護士によるEAPは実務的な施策の一つになります。
ポイント
- 従業員の心理的負担を軽減し、業務への集中を支えやすくなります。
- 福利厚生の充実として、採用や定着の面でも一定の効果が期待できます。
- 人的資本経営やウェルビーイング施策とも相性のよい制度です。
6 どのような企業に向いているか
弁護士によるEAPは、大企業だけに向いた制度ではありません。むしろ、中小企業や成長企業でも導入意義が大きい場合があります。
人員に余裕がない職場では、一人の従業員が深刻な問題を抱えたとき、その影響が職場全体に広がりやすくなります。また、採用難や人材定着が課題になっている企業では、福利厚生や支援体制の充実が経営上の重要課題になることも少なくありません。
たとえば、従業員の定着率向上を重視している企業、福利厚生を厚くしたい企業、メンタルヘルスやウェルビーイング施策を強化したい企業、顧問弁護士とは別に従業員向けの相談ルートを整えたい企業などには、相性がよいと考えられます。
ポイント
- 大企業だけでなく、中小企業や成長企業にも導入意義があります。
- 人材定着、福利厚生、ウェルビーイング強化を重視する企業に向いています。
- 顧問弁護士とは別に、従業員支援の導線を持ちたい場合にも有効です。
7 これからの企業法務との関わり
従来の企業法務は、契約、労務、紛争対応など、会社そのものに生じた法的課題への対応が中心でした。しかし、人的資本経営や従業員エンゲージメントが重視される現在では、従業員が安心して働ける環境づくりそのものが、企業経営の重要なテーマになっています。
その意味で、弁護士によるEAPは、単なる福利厚生メニューの追加ではなく、従業員支援と企業法務をつなぐ新しい視点を示すものです。問題が深刻化した後に対応するだけでなく、早い段階で適切な相談先につなぐことで、職場の安定や企業価値の維持向上にもつながり得ます。
牛見和博弁護士による『会社法務A2Z』での特別寄稿は、まさにこうした視点を対外的に示したものとして位置付けられます。板橋晃平弁護士が弁護士EAP協会の理事として関わっていることも踏まえると、このテーマは今後さらに注目されていく可能性があります。
ポイント
- 企業法務は、会社内部の問題対応だけでなく、従業員支援の視点も求められる時代になっています。
- 弁護士によるEAPは、予防的な支援という意味でも企業法務と親和性があります。
- 今後は、福利厚生と法務の境界を横断する取組みとして関心が高まる可能性があります。
8 よくある質問(FAQ)
弁護士によるEAPとは何ですか。
弁護士によるEAPとは、従業員が抱える離婚、相続、借金、交通事故、不動産トラブルなどの私生活上の法的問題について、弁護士が相談対応を行い、必要に応じて解決の道筋を示す従業員支援の仕組みです。
会社の顧問弁護士とは何が違うのですか。
顧問弁護士は通常、会社自身の法律相談に対応する立場です。これに対し、弁護士によるEAPは、従業員個人の私生活上の法的問題について相談できる窓口として設けられる点に違いがあります。
どのような企業に向いていますか。
従業員の定着率向上を重視する企業、福利厚生を充実させたい企業、人的資本経営やウェルビーイング施策を強化したい企業、顧問弁護士とは別に従業員向けの支援ルートを整えたい企業に向いています。
まとめ
弁護士によるEAPとは、従業員が抱える私生活上の法的問題について、弁護士が相談対応し、必要に応じて解決への道筋を示す仕組みです。従業員個人の問題であっても、就労状況を通じて会社に影響することは少なくありません。だからこそ、従業員支援と企業法務を切り離さずに考える視点が重要になります。『会社法務A2Z』での特別寄稿も含め、弁護士によるEAPは、これからの企業法務の一つの方向性として注目されるテーマといえるでしょう。
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