2026/03/20 解決事例・コラム
相続の備えはお早めに 生前贈与・不動産評価・税制改正の最新ポイント
相続の備えはお早めに
生前贈与・不動産評価・税制改正の最新ポイント
相続の備えは、早ければ早いほど選択肢が広がります。生前贈与のルール変更、不動産評価の見直し、賃貸不動産を使った節税への規制強化など、相続をめぐるルールが近年相次いで変わっています。「うちはまだ大丈夫」と思っているうちに選択肢が狭まってしまうのが相続の怖さです。本記事では、最新の税制改正を踏まえながら、今すぐ確認しておきたい相続の備えのポイントをわかりやすく解説します。
1 相続の準備が複雑になりやすい理由
相続は、単に財産を分けるだけの手続ではありません。誰が相続人になるのかを確認し、どのような財産や負債があるのかを調べ、必要に応じて遺産分割協議を行い、不動産があれば名義変更も進めていく必要があります。
特に、不動産がある場合、相続人が複数いる場合、生前の援助や贈与の有無が問題になる場合には、考えるべき点が一気に増えます。家族の間で認識に違いがあると、手続そのものよりも話し合いの進め方に時間がかかることもあります。
さらに近年は、税制改正の頻度が高まっており、少し前の知識では対応できないケースが増えています。法律・税務・家族関係・財産管理が複雑に絡み合うのが相続の特徴です。準備なしに始まると負担が大きくなりやすいからこそ、生前のうちに整えておくことに大きな意味があります。
このセクションのポイント
- 相続は法律・税務・家族関係・財産管理が複雑に絡み合う
- 不動産・複数相続人・生前贈与の有無が複雑化の主な要因
- 近年は税制改正の頻度が高く、最新情報の確認が不可欠
2 相続手続の全体像
相続が始まると、大まかに次のような作業が必要になります。これらは互いに密接に連動しており、一つが滞ると全体のスケジュールに影響が及びます。
たとえば不動産を誰が取得するかが決まらないと遺産分割全体がまとまらないことがありますし、生前贈与の扱いが争点になると預金や不動産の分け方にも波及します。相続が始まってから慌てて資料を集めるよりも、生前のうちに財産の一覧や関係資料を整理しておくことが、後の負担を大きく減らします。
このセクションのポイント
- 相続手続は7つの主要作業が相互に連動している
- 一つが滞ると全体のスケジュールに波及する
- 財産の一覧・関係資料は生前のうちに整理しておくことが重要
3 「相続税が戻ってくる」——不動産評価減で相続税を取り戻す
あまり知られていませんが、一度納めた相続税が還付される(戻ってくる)ことがあります。その主な理由が、不動産の評価減です。
土地の相続税評価は、路線価をベースに計算するのが基本です。しかし土地には、路線価だけでは反映されない個別事情が数多く存在します。こうした要素を一つひとつ丁寧に調べ、評価減の根拠として積み上げることで、最終的な相続税額が大きく変わることがあります。実務では、こうした評価減の積み重ねによって多額の還付が実現したケースも報告されています。
評価減につながり得る主な個別事情
- 接道が不十分な土地(無道路地・袋地など)
- 都市計画道路の指定がある土地
- 地盤が軟弱な土地
- 土壌汚染や地中埋設物がある土地
- 騒音・振動・臭気の影響を受ける土地
- 高圧電線が上空を通っている土地
- 墓地に隣接している土地
- 崖地に該当する土地
- 水害リスクのある土地
- 登記簿面積と実際の面積に差がある土地
「うちの土地は普通の住宅地だから関係ない」と思わず、専門家に個別事情を確認してもらうことが重要です。申告後であっても、更正の請求によって税金が戻るケースがあります。
このセクションのポイント
- 路線価だけでは反映されない個別事情の積み上げで評価減が可能
- 申告後も更正の請求で相続税が戻るケースがある
- チェック項目は10項目以上——専門家への個別確認が不可欠
4 名義預金——税務調査で最も狙われる論点
相続税の税務調査は、申告書の提出から1〜2年後に行われることが多く、調査で最も問題になりやすいのが「名義預金」です。
名義預金とは、通帳の名義は子どもや孫になっているものの、実際には被相続人(亡くなった方)が資金を出し、管理していた預金のことです。税務署は名義だけでなく「実質的に誰の財産か」を重視するため、贈与の実態が伴っていないと相続財産に取り込まれるリスクがあります。
重要なのは、名義預金と認定された場合でも、専門家が贈与の事実や資金の流れを丁寧に立証することで、認定額が大きく変わり得るという点です。記録の整備を生前から意識しておくことが、後の争いを防ぐことにつながります。
名義預金と疑われやすいケース
- 親が家族名義の口座を作って自ら管理していた
- 通帳や印鑑を名義人ではなく親が保管していた
- 名義人が預金の存在や金額を把握していなかった
- 贈与として渡したつもりでも書面や振込記録が残っていない
このセクションのポイント
- 税務調査は申告後1〜2年後——名義預金が最大の調査ポイント
- 名義より「実質的な管理者・資金拠出者」が問われる
- 贈与契約書・振込記録・名義人による自己管理の記録を残しておく
5 マンションの相続税評価が変わった(2024年〜)
2024年1月1日以降の相続・贈与から、区分所有マンションの相続税評価方法が見直されました。従来は、タワーマンションなどの区分所有不動産について、実際の市場価格と相続税評価額との間に大きな乖離が生じやすく、これを利用した節税が広く行われていました。
新しいルールでは、市場価格との乖離を縮める方向で評価方法が変更されており、場合によっては評価額が従来と比べて大幅に上昇するケースがあります。
| 項目 | 改正前 | 改正後(2024年1月1日〜) |
|---|---|---|
| 評価の基本方針 | 土地(路線価)+建物(固定資産税評価額) | 市場価格との乖離を補正する係数を導入 |
| 高層階・立地の影響 | 評価額に反映されにくかった | 階層・立地に応じた補正が加わる |
| 節税への影響 | 市場価格の2〜3割程度の評価も可能だった | 評価額が大幅に上昇するケースがある |
マンションを多数保有している方や、相続対策としてマンション購入を検討している方は、新ルールの下での試算を専門家に依頼することが一層重要になっています。
国税庁「居住用の区分所有財産の評価について(法令解釈通達)」:https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kobetsu/sozoku/230928/index.htm
このセクションのポイント
- 2024年1月1日以降の相続・贈与から新評価ルールが適用
- 市場価格との乖離を縮める方向での評価額引き上げ
- マンション保有者・購入検討者は新ルール下での試算が不可欠
6 賃貸不動産節税への規制強化——2026年税制改正
賃貸アパートや収益不動産を活用した相続税対策は、長年にわたって広く行われてきました。しかし近年、こうした手法に対する法的・税務的な見直しが相次いでいます。
2022年には最高裁判所が、相続直前に不動産を購入して評価額を下げる手法について、税務上の評価通達によらず市場価格に近い額で課税できると判断しました。さらに2025年12月には、貸付用不動産の相続税評価に関する通達改正が発表されています。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象となる不動産 | 被相続人等が相続の5年以内に購入・新築した一定の貸付用不動産 |
| 適用開始 | 2027年1月1日以後の相続等 |
| 評価方法 | 取得価額×地価変動率×80%(通常の取引価額) |
| 対象外となるもの | 通達で定める日(2026年中)の5年前から所有している土地、および同日までに着工している建物 |
長年所有してきた土地に賃貸建物を建てるケースや、すでに着工している建物は今回の規制の対象外とされています。一方、2026年以降に新たに取得した貸付用不動産については、購入価格に近い額で課税されるリスクが生じます。賃貸不動産を活用した相続対策を検討している方は、最新のルールを踏まえたうえで専門家に相談することが不可欠です。
最高裁判所令和4年4月19日判決(相続税評価通達の適用に関する判断):https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=91367
このセクションのポイント
- 最高裁判決(令和4年)で「通達外課税」が認められた
- 2025年12月発表の通達改正で、取得後5年以内の貸付用不動産は取得価額ベースで評価される見込み
- 長期保有の土地・着工済み建物は対象外——早めの判断が重要
7 生前贈与のルールが変わった——7年加算と精算課税の新設
生前贈与は相続税対策の基本的な手段の一つですが、近年ルールが大きく変わりました。2024年以降の贈与については、亡くなる前の贈与が相続財産に加算される期間が段階的に最長7年に延長されています。亡くなる直前の駆け込み贈与の効果が薄れ、より長期的な視点での計画が求められています。
一方で、相続時精算課税制度には2024年から年間110万円の基礎控除が新設され、使い勝手が向上しました。
| 項目 | 暦年贈与 | 相続時精算課税 |
|---|---|---|
| 相続財産への加算期間 | 最高7年間(段階的に延長) | 全期間(110万円以内は加算不要) |
| 贈与税の非課税枠 | 年間110万円 | 年間110万円+累計2,500万円 |
| 大きな金額の節税効果 | あり | なし(相続時に精算) |
| 贈与者の制限 | 制限なし | 60歳以上の親・祖父母 |
どちらの制度が有利かは、年齢・健康状態・財産規模・相続人の構成によって異なります。特に財産規模が大きい場合は両制度の有利不利の差が顕著になるため、専門家による試算を早めに依頼することをお勧めします。
内閣府税制調査会「相続税・贈与税の一体化について」:https://www.cao.go.jp/zei-cho/content/4sozoku-zoyo1.pdf
このセクションのポイント
- 暦年贈与の持ち戻し期間が段階的に最長7年に延長(2024年〜)
- 相続時精算課税に年間110万円の基礎控除が新設(2024年〜)
- どちらが有利かは個別事情による——専門家への試算依頼が重要
8 相続トラブルが起きやすい場面とその対策
相続でトラブルが起きやすいのは、財産額が大きい場合だけではありません。次のような事情が重なると、対立が生じやすくなります。
- 相続人の一人が長く親の面倒を見ていた
- 特定の子どもが生前に援助や贈与を受けていた
- 不動産しか大きな財産がなく、分けにくい
- 親の意向がよくわからない
- 誰が本家を引き継ぐのかが不明確
法律上は整理できる問題であっても、家族の感情が絡むと話し合いが難しくなることがあります。「なぜ自分には説明がなかったのか」「生前にあれだけ援助したのに」といった不満が表面化しやすいのが相続の難しさです。
注意したいのは、手続の遅れが税務上の特例を失うリスクにもつながる点です。争いを防ぐためには、法律上の準備と並行して、生前のうちに家族間で一定の情報共有をしておくことが重要です。
このセクションのポイント
- もめやすいのは財産額が大きい場合だけではない
- 感情的な問題が絡むと、法律上の整理だけでは解決しにくい
- 手続の遅れが税務上の特例を失うリスクにもつながる
9 遺言を作る意味
遺言があると、誰にどの財産を承継させたいかという本人の意思を明確に示せます。遺産分割の話し合いが不要になるとは限りませんが、少なくとも話し合いの出発点が明確になり、争いを減らしやすくなります。
実務上、財産規模が大きい方でも遺言を作成していないケースは少なくありません。「まだ早い」「書くと縁起が悪い」という心理的ハードルが影響していることも多いようです。しかし遺言は、書いた本人よりも残された家族のためのものです。
もっとも、遺言は作成すれば終わりではありません。財産の内容や家族構成が変わった場合には内容を見直すことも必要ですし、遺留分など別途検討が必要な論点が生じることもあります。
遺言を検討したい場面
- 不動産を特定の人に承継させたい
- 子どもごとに財産の分け方を考えたい
- 再婚家庭で家族関係が複雑
- 事業承継を見据えている
- 相続人間の話し合いが難しくなりそう
このセクションのポイント
- 遺言は「残された家族のため」のもの——心理的ハードルを下げて早めに準備を
- 財産・家族構成が変わったら定期的に内容を見直す
- 遺留分など付随する法律問題も専門家に確認する
10 早めに弁護士へ相談するメリット
相続は税務・不動産・家族関係が複雑に絡み合うため、内容によっては税理士・司法書士など他の専門家との連携も必要になります。弁護士に早めに相談するメリットは、とりわけ家族間の利害調整や紛争予防の観点から大きいといえます。
次のような点は、早めに検討しておくほど選択肢が広がります。
- 遺言をどのように作れば争いを減らしやすいか
- 不動産を誰に承継させるのが現実的か
- 生前贈与をどのように記録しておくべきか
- 相続開始後にどの論点が争いになりやすいか
- 最新の税制改正が自分の状況にどう影響するか
相続が始まってからの相談ももちろん可能ですが、争いを防ぐという観点では、生前の段階で一度相談しておく意義は非常に大きいといえます。
このセクションのポイント
- 弁護士への早期相談は紛争予防・選択肢の確保に有効
- 税理士・司法書士との連携が必要な局面も多い
- 相続開始後よりも生前相談のほうが対応の幅が広い
11 よくある質問(FAQ)
財産が少なければ相続の備えは不要ですか?
そうとはいえません。相続税がかからない場合でも、遺産分割の話し合いや不動産の名義変更は必要です。不動産が一つあるだけでも分け方で争いになることがあり、財産額にかかわらず備えは重要です。
生前贈与はいつから始めればよいですか?
できるだけ早い段階から始めることをお勧めします。2024年以降、亡くなる前の贈与が相続財産に加算される期間が段階的に最長7年に延長されており、早期に計画的に進めることが重要です。暦年贈与と相続時精算課税のどちらが有利かは個別事情によるため、専門家への相談が不可欠です。
賃貸アパートの購入は相続税対策になりますか?
2025年12月発表の通達改正により、相続の5年以内に取得した貸付用不動産は、路線価等ではなく取得価額をベースとした評価(取得価額×地価変動率×80%)が適用される見込みです(2027年1月1日以後の相続等から)。以前のような大幅な節税効果は見込みにくくなっているため、専門家に最新のルールを確認したうえで判断することが重要です。
遺言がなくても相続はできますか?
遺言がなくても相続は可能ですが、相続人全員で遺産分割協議を行う必要があります。相続人が多い場合や、不動産の分け方で意見が分かれる場合には、協議が長期化することがあります。遺言があると本人の意思が明確になり、話し合いの出発点として機能します。
12 まとめ——相続の備えは今日から始められる
相続の備えは、早ければ早いほど選択肢が広がります。財産の内容を整理し、家族で話し合い、必要に応じて遺言や生前贈与の方法を検討しておくことで、相続開始後の混乱や対立を減らすことができます。
特に近年は、マンション評価の見直し、賃貸不動産節税への規制強化、生前贈与の加算期間延長、不動産評価減による還付の可能性など、知っておくべき変化が続いています。以前の知識だけで判断せず、最新の情報をもとに専門家に相談することが、今の時代の相続準備の基本です。
相続のご相談はお早めに
生前贈与・不動産評価・遺言作成・相続税対策など、相続に関するお悩みはお気軽にご相談ください。生前の段階からご相談いただくことで、選択肢が大きく広がります。

