解決事例・コラム

2026/03/20 解決事例・コラム

デジタル遺言制度の現状と今後の展望 作成方法、メリットも解説

 

 

デジタル遺言制度の現状と今後の展望
作成方法、メリットも解説

最終更新日:令和8年3月18日 相続 遺言

「デジタル遺言」という言葉を見聞きする機会が増えています。もっとも、2026年3月18日現在、いわゆるデジタル遺言は、まだ利用できる制度ではありません。現在進んでいるのは、法務局の関与のもとで新たな遺言方式を設けることなどを内容とする遺言制度の見直しです。本記事では、制度の現在地、自筆証書遺言の自書要件、今後の普及可能性、利用する際に気を付けるべきことを、一般の方にも分かりやすく整理します。

1 デジタル遺言とは何か

「デジタル遺言」とは、単にパソコンやスマートフォンで書いただけの遺言書を指す言葉ではありません。

法務省では、国民がデジタル技術を活用して、現行の自筆証書遺言と同程度の信頼性が確保することができる新たな遺言形式として、デジタル遺言書が検討されてきました。そのため、デジタル遺言は「紙の遺言をデータに置き換えるだけの制度」ではなく、本人確認や保管の方法も含めて制度設計されるものと理解するのが正確です。

法務省「遺言制度の見直しに向けた検討」
https://www.moj.go.jp/content/001451685.pdf

この章のポイント

  • デジタル遺言は、単なる電子ファイルの保存ではありません。
  • 法務局の関与を前提とした新しい遺言方式が議論されています。
  • 目的は、利便性を高めつつ信頼性も確保することにあります。

2 2026年3月18日現在の制度状況

2026年3月18日現在、デジタル遺言はまだ施行済みの制度ではありません。法務省の公表によれば、令和8年1月20日に法制審議会民法(遺言関係)部会で「民法(遺言関係)等の改正に関する要綱案」が取りまとめられ、さらに令和8年2月12日の法制審議会総会で採択され、法務大臣に答申されています。

もっとも、要綱が答申されたことと、法律が成立して施行されていることは別です。参議院の公開資料でも、現時点は法律案の立案作業が進められている段階と整理されています。したがって、現時点で「もう使える制度」ではありませんが、制度化の方向性はかなり具体化しており、実現が目前であるといえるでしょう。

時点 主な動き 位置付け
令和7年7月15日 中間試案の公表 検討段階
令和8年1月20日 部会で要綱案を取りまとめ 要綱案段階
令和8年2月12日 法制審議会総会で採択・法務大臣に答申 要綱答申後
令和8年3月18日現在 法案化作業が進行中 未成立・未施行

法務省「法制審議会第204回会議(令和8年2月12日開催)」
https://www.moj.go.jp/shingi1/shingi03500044_00013.html

法務省「民法(遺言関係)等の改正に関する要綱案」(令和8年1月20日)
https://www.moj.go.jp/shingi1/shingi04900001_00327.html

参議院常任委員会調査室・特別調査室「法務及び司法行政に関する主な課題」
https://www.sangiin.go.jp/japanese/annai/chousa/rippou_chousa/backnumber/2026pdf/20260316033.pdf

この章のポイント

  • 2026年3月18日現在、デジタル遺言はまだ利用開始前です。
  • 現在地は、法制審議会の要綱答申後、法案成立前です。
  • 現時点で「すでに使える制度」ではありません。

3 デジタル遺言書で何が変わるのか

デジタル遺言書のポイントは、遺言内容を電磁的記録や書面で準備し、法務局に保管申請を行い、本人確認や遺言内容の確認を経て保管する方向が想定されていることです。公開資料では、対面だけでなく、ウェブ会議を利用した確認方法も検討対象とされています。

また、保管型の制度であることから、相続開始後の検認を不要とする方向も示されています。現行の自筆証書遺言では、自宅保管の場合に家庭裁判所での検認が必要になることがありますが、新制度が導入されれば、方式面と保管面の負担が軽くなる可能性があります。

もっとも、具体的なファイル形式、技術的な要件、オンライン利用の範囲、細かな運用は今後の法案や省令、実務運用でさらに明確化される見込みです。そのため、現段階では「こうなる予定の大枠」として理解するのが適切です。

法務省「民法(遺言関係)等の改正に関する要綱案(修正案)についての説明資料」
https://www.moj.go.jp/content/001455727.pdf

参議院常任委員会調査室・特別調査室「法務及び司法行政に関する主な課題」
https://www.sangiin.go.jp/japanese/annai/chousa/rippou_chousa/backnumber/2026pdf/20260316033.pdf

この章のポイント

  • 新方式の中心は、法務局保管を前提とする保管証書遺言です。
  • 方式面の負担や保管面の不安を軽くする方向が示されています。
  • ただし、細かな利用条件はまだ確定していません。

4 デジタル遺言書と自書要件

今回の見直しは、新しい方式を加えるだけなく、既存の自書要件の一部が緩和される可能性もあります。要綱案では、自筆証書遺言について押印要件を削る方向が示されています。ただし、ここで注意したいのは、自書要件そのものがなくなるわけではないという点です。したがって、将来制度が変わったとしても、ワードで作成した文書がそのまま自筆証書遺言として有効になると考えるのは正確ではありません。

なお、自書要件とは、自筆証書遺言の本文、日付、氏名は、遺言をする本人が自分で手書きしなければならないというルールです。法務省の案内でも、自筆証書によって遺言をするには、遺言書の全文、日付及び氏名を自書し、押印する必要があると説明されています。

このため、現行制度では、本文をパソコンで作って印刷し、最後だけ署名したとしても、通常は自筆証書遺言の要件を満たしません。一般の方が誤解しやすい点ですが、「自筆証書遺言」は名前だけ手書きすればよいのではなく、原則として本文も自分で書く必要があります。

もっとも、例外もあります。財産目録については、法改正により、パソコンで作成した一覧表や通帳のコピー、不動産登記事項証明書の写しなどを添付することができます。ただし、その場合でも、目録の各ページに署名押印が必要です。

なぜこのような手書きのルールがあるのかというと、自筆証書遺言は証人や公証人の立会いがないため、本人が本当にその内容で遺言したのか、他人が勝手に作ったものではないかを見分けやすくする必要があるからです。手書きであることには、遺言者の真意や作成の真正性を支える意味があります。

法務省「遺言書の様式等についての注意事項」
https://www.moj.go.jp/MINJI/03.html

法務省「自筆証書遺言に関するルールが変わります。」
https://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00240.html

法務省「遺言制度の見直しにおける主な検討事項」
https://www.moj.go.jp/content/001417665.pdf

この章のポイント

  • 自書要件とは、本文、日付、氏名を本人が手書きするルールです。
  • 現行法では、本文をパソコンで作るだけでは自筆証書遺言になりません。
  • 財産目録だけは例外的にパソコン等で作れますが、各ページの署名押印が必要です。

5 今後の展望 デジタル遺言書は普及するのか

既存の自筆証書遺言では、本文を自分で手書きしなければならないことに由来する作成のハードルの高さや、方式の不備で無効になりやすいといった欠点を抱えていました。

デジタル遺言書は、デジタル技術の活用によってこれらの問題を解決しつつ、現行の自筆証書遺言と同程度の信頼性を持つ遺言となりうる存在として整備が進められてきたものであるため、今後、普及していく可能性が高いと見られています。

また、デジタル遺言書は法務局に保管される点も画期的です。この新たな方式によって、紛失や隠匿の心配を減らしやすく、相続開始後の手続負担も軽くなることが期待されます。これまで「遺言は面倒そう」「手書きが大変」と感じていた方にとって、制度が整えば利用のハードルが下がる可能性があります。

特に、高齢化が進む中で、相続対策の必要性を感じながらも遺言作成まで踏み出せなかった層にとっては、デジタル化は普及を後押しする要素になり得ます。今後、法案成立、施行時期の確定、運用の周知が進めば、デジタル遺言書は相続実務の中で一定の存在感を持つ制度になると考えられます。

もっとも、普及が進むかどうかは、制度そのものの分かりやすさだけでなく、利用手続の負担、オンライン利用のしやすさ、本人確認方法の実務運用などにも左右されます。したがって、将来制度として期待は大きいものの、実際の普及のスピードは施行後の運用次第という面もあります。

法務省「遺言制度の見直しに向けた検討」
https://www.moj.go.jp/content/001451685.pdf

法務省「民法(遺言関係)等の改正に関する要綱案(修正案)についての説明資料」
https://www.moj.go.jp/content/001455727.pdf

この章のポイント

  • デジタル遺言書は、作成のしやすさから普及する可能性があります。
  • 法務局保管による安心感も、普及の後押しになり得ます。
  • もっとも、実際の普及は施行後の運用の分かりやすさにも左右されます。

6 デジタル遺言書を使う際に気を付けるべきこと

デジタル遺言書が普及しても、「デジタルだから安心」「法務局に保管されるから争いにならない」とまではいえません。新制度で改善が期待されるのは、主として方式面や保管面です。他方で、遺言の内容が大きく偏っていれば、相続人間で不満や対立が生じることはありますし、遺言者に十分な判断能力があったか、第三者の不当な影響がなかったかといった点は、制度が変わっても争点になり得ます。

内容を慎重に決めること

特定の子に多くの財産を承継させたい場合や、前婚・再婚の家族関係がある場合には、遺留分や感情的な対立が問題になりやすくなります。方式が便利になっても、争いになりにくい内容を設計する必要がある点は変わりません。

デジタルに不慣れな場合は家族任せにし過ぎないこと

今後オンライン手続が広がるとしても、本人の意思形成があいまいなまま進めると、後で疑いを招く可能性があります。便利さを重視し過ぎず、あくまで本人が内容を理解し、納得して作成することが大切です。

複雑な事案では公正証書遺言との使い分けを考えること

相続人が多い場合、事業承継が絡む場合、不動産が多い場合、遺留分紛争が予想される場合には、今後デジタル遺言書が導入されても、公証人が関与する公正証書遺言の方が適している場面は引き続き残ると考えられます。方式の便利さだけで選ばず、事案に合った方式を選ぶことが重要です。

利用時の注意点

  • デジタル化しても、内容面の争いがなくなるわけではありません。
  • 本人の判断能力や作成経緯が争点になることはなおあり得ます。
  • 複雑な相続では、公正証書遺言の方が適している場合もあります。

法務省「遺言制度の見直しに向けた検討」
https://www.moj.go.jp/content/001451685.pdf

法務省「遺言制度の見直しにおける主な検討事項」
https://www.moj.go.jp/content/001417665.pdf

7 現時点でしておきたい備え

保管証書遺言はまだ使えません。そのため、現時点で遺言を作成したい場合は、現行制度を前提に考える必要があります。確実性や紛争予防を重視するなら公正証書遺言、費用や機動性を重視しつつ法務局保管も視野に入れるなら自筆証書遺言書保管制度、という整理が実務上は分かりやすいでしょう。

また、制度改正の有無にかかわらず、相続対策としては、財産の一覧化、相続人関係の整理、遺留分の確認、判断能力や作成経緯に関する資料の確保などが重要です。将来制度に期待するだけでなく、今できる準備を着実に進めておくことが実務的です。

1財産の一覧化
2相続人関係の整理
3遺留分の確認
4遺言内容の優先順位の整理
5判断能力に関する資料の確保
6家族への説明方針の検討
7現行制度での方式選択

法務省「遺言書保管申請」
https://www.moj.go.jp/MINJI/common_igonsyo/pdf/guidebook_r7.pdf

法務省「遺言書の様式等についての注意事項」
https://www.moj.go.jp/MINJI/03.html

8 よくある質問

デジタル遺言は、2026年3月18日現在、もう利用できますか。

いいえ。2026年3月18日現在、いわゆるデジタル遺言は、法制審議会で要綱が答申された段階であり、まだ法律成立前です。現時点で新制度を利用することはできません。

自書要件とは何ですか。

自書要件とは、自筆証書遺言の本文、日付、氏名を遺言者本人が自分で手書きしなければならないというルールです。もっとも、財産目録は例外的にパソコン等で作成できますが、その場合でも各ページへの署名押印が必要です。

デジタル遺言書が普及すれば、相続トラブルは減りますか。

方式面や保管面のトラブルは減る可能性がありますが、意思能力、遺留分、不当な影響、内容の不明確さなどをめぐる争いはなお生じ得ます。デジタル化だけで、全ての相続トラブルがなくなるわけではありません。

今すぐ遺言を作りたい場合はどうすればよいですか。

現時点でも、公正証書遺言、自筆証書遺言、自筆証書遺言書保管制度は利用可能です。確実性や紛争予防を重視するなら、公正証書遺言を中心に検討するのが実務上有力です。

9 まとめ

デジタル遺言制度は、2026年3月18日現在、法制審議会の要綱答申後であり、まだ法案成立前です。今後、保管証書遺言のような新しい方式が導入されれば、作成のしやすさや保管の安心感から、一定の普及が進む可能性があります。他方で、遺言をめぐる争いは、方式だけでなく内容や作成時の事情にも左右されるため、デジタル化しても注意すべき点は残ります。これから遺言を考える方は、新制度の動向に注目しつつも、現行制度のもとで今できる準備を着実に進めることが大切です。

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デジタル遺言制度は今後の重要な制度改正テーマですが、現時点での相続対策は、現行制度を前提に進める必要があります。どの方式を選ぶべきか、家族関係や財産内容を踏まえてどのような内容にするべきかは、個別事情によって大きく変わります。

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