解決事例・コラム

2025/12/08 解決事例・コラム

賃料増額請求の基本: オーナーが押さえるべき法的ポイント

賃料増額請求の基本:
オーナーが押さえるべきポイント

最終更新日:2025年11月21日

 

賃料を見直すメリットと収益改善のインパクト

賃料の見直しは、オーナーにとって収益改善の効果が非常に大きい取組です。たとえば、月額賃料が5万円上がるだけで年間60万円の増収となります。利回り4%の物件であれば、約1500万円の価値上昇に相当し、利回り3%であれば約2000万円に相当します。

すぐに売却しない場合でも、5年で300万円、10年で600万円、20年では1200万円以上の収益差が生じます。金利上昇局面では、適正賃料を確保することが資産価値を守るうえで重要なポイントです。

賃料増額が認められる法的仕組み(借地借家法第32条)

賃料は、契約で定めた金額が永続するわけではありません。借地借家法第32条により、経済事情の変化などで賃料が不相当となった場合には、貸主・借主のいずれからでも将来に向けて増額・減額を求めることが認められています。

【借地借家法第32条(抜粋)】
建物の借賃が、土地若しくは建物に対する租税その他の負担の増減により、土地若しくは建物の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により、又は近傍同種の建物の借賃に比較して不相当となったときは、契約の条件にかかわらず、当事者は、将来に向かって建物の借賃の額の増減を請求することができる。ただし、一定の期間建物の借賃を増額しない旨の特約がある場合には、その定めに従う。

つまり、増額請求は法的に認められた正当な権利であり、正しい手順を踏めば実現可能な制度です。

適正賃料を判断する3つの客観基準

賃料が「不相当」かどうかは主に次の3点から判断されます。

① 固定資産税などの負担増

物件に課される税金が増えた場合、賃料改定の根拠となります。課税明細を年度ごとに確認し、負担増があるか把握しておきましょう。

② 対象物件や周辺環境の価値変動

地価の上昇、周辺施設の新設などにより物件価値が上昇している場合、増額の理由になり得ます。インフレなど社会全体の経済動向も考慮されます。

③ 近隣の同種物件との賃料比較

最も重要とされる点です。類似条件の物件の募集賃料を調査し、それと比較して現在の賃料が相場より低い場合、増額が正当化されやすくなります。

賃料増額請求の進め方

弁護士に依頼した場合の一般的な進行は次のとおりです。

STEP1 内容証明郵便による正式な通知

弁護士名義の内容証明で請求内容を明確に伝えます。発送日と内容が公式に証明されるため、後の手続で非常に重要な役割を果たします。

STEP2 借主との交渉

通知後の交渉では、弁護士が窓口となることで感情的対立を避け、法的根拠に基づいた冷静な話し合いが可能になります。

STEP3 裁判所での調停

合意に至らない場合、裁判所の調停で話し合いを続けます。調停委員が双方の事情を踏まえて合意形成を支援します。

STEP4 訴訟(裁判)

調停でも決着しない場合、裁判所が最終的に適正賃料を判断します。不動産鑑定士の意見など専門資料が重視されます。

自力対応で陥りやすいトラブル

オーナーが独力で進めた場合、次のようなトラブルがよく見られます。

よくあるトラブル

  • 感情的な交渉となり、借主との関係が悪化する
  • 根拠資料が不十分で、交渉が成立しない
  • 従来賃料の受領方法を誤り、請求撤回と扱われるリスク

また、以下のような誤解もよく見られます。

よくある誤解

  • 「契約書に増額しないと書いてあるから無理」と思い込む
  • 「相手が応じないなら諦めるしかない」と早合点してしまう

弁護士に依頼するメリットと費用対効果

弁護士に依頼すると次のようなメリットがあります。

弁護士に依頼するメリット

  • 適正賃料の算定や証拠整理を専門家の視点で実施
  • 交渉窓口を任せることで時間的・精神的負担が減少
  • 法的に適切な文書作成が可能
  • 調停・訴訟への移行にも一貫対応
  • 借主との関係悪化を最小限に抑えられる

たとえば月額3万円の増額に成功すれば年間36万円、5年で180万円の収益改善につながります。弁護士費用は一時的な負担ではありますが、うまく使うことで将来的なリターンを得ることができます。

まとめ

賃料増額請求は、収益向上に直結する非常に重要な手続です。法的根拠に基づき、適切な証拠を揃えて進めれば成功の可能性は高まります。一方で、交渉方法や受領の仕方を誤ると大きなリスクにつながるため、専門家に早めに相談することが大切です。

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